Newsletter Volume 36, Number 1, 2021

受賞者からのコメント

顔写真:野田健太

優秀口頭発表賞を受賞して

長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 医薬品情報学研究室
野田健太

 この度は,日本薬物動態学会第35回年会におきまして,優秀口頭発表賞を授かり,大変光栄に思っております.年会長の山崎浩史先生,ご審査頂きました選考委員の先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者の皆様に,厚く御礼申しあげます.

 抗腫瘍効果を有しているマクロファージなどの免疫細胞由来の細胞外小胞(EVs)は,効果的な治療法が無い肺がんに対して新たな治療薬になることが期待されています.しかし,静脈内投与したEVsは半減期が短く,また,肝臓に集積することから標的の腫瘍に到達せず,そのため治療効果を発揮できないことが課題となっています.肺がん治療に向けて,薬物の局所投与である経肺投与は,肺疾患部位へ直接薬物を投与できることなどから静脈内投与での問題を解決する可能性を有していますが,一般的にナノ粒子は経肺投与後,肺胞マクロファージ(AMs)により捕捉され迅速に分解されることが知られています.

 そこで私たちの研究グループではマウスマクロファージ細胞RAW264.7から単離したEVsを用いて,AMsからの貪食作用を回避する機能を有するポリエチレングリコール(PEG)や,ヒト肺がん細胞株A549に高発現しているインテグリンαvβ3へ指向性を有するRGDペプチド修飾を行い,PEGまたはRGD修飾EVsの機能性を評価しました.

 機能化EVsの実用化に向けては,マクロファージから単離したEVsに対して,素早く機能性分子を修飾する新たな調製技術の開発が望まれます.そこで,マイクロ流体装置であるNanoAssemblr®を用いて,迅速かつ再現性良くPEG修飾EVsとRGD修飾EVsの調製法の開発を行いました.その結果,PEGまたはRGD修飾EVの粒子径は約300nm,ゼータ電位は約-10mVと未修飾EVsと同程度の物理化学的性質を有する機能化EV製剤の調製が行えることを明らかにしました.次に,PEG修飾EVsをマウス経肺投与後,AMsへの取り込みとEVsの肺での滞留性を評価したところ,PEG修飾EVsは未修飾EVsと比較してAMsからの取り込み・分解を回避し肺に長時間留まる可能性があることを明らかにしました.一方,RGD修飾EVsの肺がん細胞A549への結合性を評価したところ,未修飾EVsと比較してA549細胞に対して約5倍程度の細胞結合性を示し,RGD修飾EVsはA549細胞に対して優れた結合性を有する可能性が示されました.

 以上,マイクロ流体装置を用いたPEGならびにRGD修飾EVsの新たな調製法を開発しました.PEG修飾EVは,AMsからの取り込みが抑制され,その結果,肺での滞留性が向上される可能性が示されました.またRGD修飾EVsは,ヒト肺がん細胞A549に高い結合性を有する可能性が示されました.今後はこれらを用いて肺がん治療に向けて更に研究を進めていこうと考えています.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の川上 茂教授,向井英史准教授,ならびに学生の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.