Newsletter Volume 32, Number 6, 2017

追悼文

(故)渡邉 淳先生

-渡邉 淳先生を偲ぶ-

名古屋市立大学大学院薬学研究科
湯浅博昭

 渡邉 淳先生(名古屋市立大学名誉教授,日本薬物動態学会名誉会員)が平成29年5月に逝去されたとの報せを受けました(享年81).5年余り前に愛知学院大学薬学部での教授の職を退かれてからは,各種の会合の場などからも遠ざかり,ゆったりと過ごされているご様子でした.その間も折に触れて連絡を取らせて頂いていましたが,やや音信が途絶え気味となっていたところへの哀しい報せとなりました.引退後の生活を楽しんで頂くには短かったのではないかという気がしてなりません.

 渡邉先生は,東京にて昭和11年2月6日のお生まれで,昭和38年3月に東京大学大学院化学系研究科博士課程(薬学専攻)を修了された後(昭和38年7月薬学博士学位取得),塩野義製薬株式会社での研究員の職を経て,昭和49年9月から平成12年3月までの25年余りに渡って名古屋市立大学薬学部教授(薬剤学講座)を務められました.また,平成11年4月からの1年間は,薬学部長・大学院薬学研究科長も務められました.その後,平成12年4月から平成15年3月までの日本大学薬学部教授(薬剤学研究室)を経て,愛知学院大学薬学部の新設に携わられ,薬剤学講座の初代の教授を務められました(平成17年4月就任).また,初代の薬学部長も務められました(平成17年4月~平成19年3月).このようにして,平成24年3月に同大学での教授職を退任されるまで,37年余りの長きに渡って大学での教育研究に携わられ,後進の指導育成に力を尽くされました.

 学術面では,日本薬物動態学会を主な活動の場とし,第12回年会長(平成9年)及び第6期会長(平成12年1月~平成13年12月)を務められるなど,多大な貢献をされました.また,高分子多糖類に属するヘパリンの体内分布特性及び主要分臓器である肝でのスカベンジャー受容体を介する輸送機構に関する研究業績で,平成10年度日本薬物動態学会学術賞を受賞されました(受賞題目:薬物の体内分布決定要因の定量的評価).

 私は,昭和61年4月に渡邉先生のもとで助手に採用して頂き,以来,公私に渡りお世話になりました.研究面では,ヘパリンの体内動態,薬物の唾液中排泄の研究をお手伝いさせて頂くことで研究活動の幅を広げることができ,一方で,私の取り組んでいた薬物消化管吸収の研究について多くの貴重なご助言などを頂きました.現在は,薬物消化管吸収の領域も含めながら広く薬物動態関連のトランスポーター研究を展開していますが,その基盤となる考え方や取り組み方も学ばせて頂いたと思います.また,日本薬物動態学会をはじめとする種々の学会関係の仕事をお手伝いするなかで,学会運営の要領などを学びつつ,関係の先生方との交流を広げ,深めることもできました.教育面では,要所では厳しい面を見せながらも,配慮と温かみのある指導をされていました.私自身も,ご指導を頂きながら,それによって指導力を養うこともできたと思います.渡邉先生のご配慮のおかげで,研究活動を順調に進め,教育活動も含めて役割を果たすことができたかと思います.私的な面でも,家族揃って懇意にして頂き,多くの思い出を残して下さいました.

 渡邉先生は,常に好奇心旺盛でいらっしゃいました.いろいろなことに積極的に,あるいは素早く取り組まれていたことが思い出されます.とりわけ新しいガジェット類への反応は早く,比較的新しいところでは,日本国内ではまだ珍しかった頃に電子ブックリーダーのアマゾン・キンドルを入手され,披露して頂きました.使い勝手も良いとのことで,お気に入りのご様子でした.片道25km程の長い道程を自家用車で通勤され,自動車もお好きでしたが,初のハイブリッド車のトヨタ・プリウスにも素早く反応されました.いち早くプリウスに乗り換えられ,以後,愛用されていました.国際学会にもよく出かけられましたが,リチウムの唾液中排泄の研究の関係で定期的に出席されるようになったリチウムシンポジウムは特にお気に入りのようでした.マルタ(地中海の島国)や南アフリカといったエキゾチックな地でのシンポジウムを楽しまれたこともあり,その土産話を聞かせて頂くのも楽しみでした.

 渡邉先生に最後にお会いしたのは,平成23年9月に催した私どもの薬物動態制御学分野(旧薬剤学講座)の同窓会の場でした.渡邉先生の愛知学院大学薬学部教授退任を翌春に控えた時期で,その節目を祝うためのものでした.渡邉先生には,「出来事とモデル:患者とデータ群」と題する講演をして頂きました.その講演では,薬物動態学に関わる数理モデルの話題に始まり,日常的な事象に関わる話題も交えながら,薬剤師教育や医薬分業を含む薬学及び医療の全般についての渡邉先生の見方や思いを語って下さいました.お変わりなく,トレードマークとも言えるにこやかな笑顔で同窓生との歓談を楽しまれていたことが思い出されます.笑顔と言えば,名案・迷案を思い付かれた時や首尾良く事が運んだ時に見せられた悪戯っぽい雰囲気の笑みは格別に印象的で,忘れられません.もはやお目に掛かることができないのは寂しい限りです.尽きることのない思い出を振り返りつつ,そしてご恩に感謝しつつ,渡邉 淳先生のご冥福をお祈りいたします.