Newsletter Volume 32, Number 6, 2017

DMPK 32(6)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

健常人におけるCYP2C8基質の体内動態変動の予測

Haraya, K., et al., pp. 277−285.

 ヒトにおいて,薬剤の体内動態の個体間変動を予測する事は薬効及び安全性の面で非常に重要であり,我々はこれまでヒトにおけるCYP1A2, 2C9, 2C19, 2D6, 3A4活性の個体間変動を明らかにしてきた.本研究ではCYP2C8を研究対象とし,健常人におけるCYP2C8基質のAUCの個体間変動を良好に予測できる方法論を提供した.CYP2C8基質であるpioglitazoneの臨床におけるAUCの個体間変動から確立したCYP2C8のCLint,h,2C8のCVは40%と他のCYP分子種と比較しても中程度の変動を示した.さらに確立したCLint,h,2C8のCVを用いて他のCYP2C8基質のAUCの個体間変動をモンテカルロシミュレーション法により予測し良好な予測精度を示した.今後,未だ変動が報告されていない様々な代謝酵素,さらにトランスポーターのCVが明らかになれば,非臨床段階で臨床での個体間変動を予測でき,治療域と比較しながら候補化合物を選択できるようになると考えられる.さらには薬力学的な変動を組み込み,コンピューター上で個体間変動を考慮した投与量及び投与経路等を決定可能なバーチャルクリニカルスタディの実現が期待される.

[Regular Article]

カルバマゼピンがラット脳Ugt1a6およびUgt1a7の発現に及ぼす影響

Asai, Y., et al., pp. 286−292.

 UGT1Aは,脳において発現が認められていることから,中枢神経系での神経伝達物質や薬物の代謝に関与すると示唆されている.カルバマゼピン (CBZ) は,代表的なUGTの誘導薬として知られているが,CBZによる脳UGT1Aの誘導については未解明である.そこで本研究では,CBZがラット脳に高く発現するUgt1a6およびUgt1a7の発現に及ぼす影響について検討した.ラットにCBZ 100 mg/kgを7日間連続腹腔内投与した結果,特に小脳,梨状皮質および海馬においてUgt1a6とUgt1a7のmRNA発現が誘導された.さらに,これらの発現誘導率は,主にUgt1a6によって触媒されるセロトニングルクロン酸抱合活性の誘導率と相関が認められた.また,CBZによるこれらUgt1aの誘導メカニズムについて検討したところ,脳部位でのconstitutive androstane receptorの活性化が関与する可能性を見出した.以上から,CBZによる脳Ugt1a6およびUgt1a7の誘導は,脳で薬理作用を示す薬物や神経伝達物質などの脳内濃度および作用に影響を与える可能性が示された.

[Regular Article]

マイクロドーズ臨床試験による新規開発アロマターゼ阻害薬の探索的臨床研究

Kusuhara, H., et al., pp. 293−300.

 NEDOマイクロドーズ臨床試験プロジェクトにおいて,当該試験の医薬品開発における有用性を実証するための試験の1つとして,理化学研究所で新たに開発されたアロマターゼ阻害薬の探索的臨床研究を実施した.化合物間のヒト体内動態パラメータの比較を精度よく行うため,2剤ないし3剤のカセット投与でのクロスオーバー試験をデザインし,1化合物あたりわずか2μgと極めて低用量での薬物動態試験を実施した.幸い,LC-MS/MSを用いた高感度分析により,血漿中薬物濃度の時間推移を観察することができ,期せずして,薬物動態パラメータの個人間変動に関する知見も得ることが出来た.カセット投与は同一被験者で複数の化合物の血中動態を一度に比較することができ,臨床試験の効率化にも寄与する手法として注目されているが,本法は定量手法の著しい進歩に伴いマイクロドーズ試験にも適用できるようになり,ヒト体内動態データに基づいて,次の開発ステージに進めるべき化合物を迅速にかつ合理的に選択することができる.特に,新規クリアランス機序で消失することが予想され,ヒト薬物動態の前臨床データに基づく予測性が不明な場合に,薬物動態に起因する失敗を回避することに貢献するものと期待される.

[Regular Article]

デオキシシチジンキナーゼによるデシタビンのリン酸化が,ヒト大腸がん細胞株HCT116細胞におけるデシタビンの見かけの細胞内取り込みに影響する

Ueda, K., et al., pp. 301−310.

 DNAメチル化阻害薬デシタビン(DAC)は,促進拡散であるヌクレオシド輸送体ENT1を介してがん細胞内に取り込まれたあと,デオキシシチジンキナーゼ(dCK)によってモノリン酸化体となる.促進拡散による薬物輸送は基質の濃度勾配に従うことから,dCKによるDACのモノリン酸化が阻害されると,DACが細胞内に蓄積し,DACの見かけの細胞内取り込み量が低下するのではないかと考えた.DACの見かけの細胞内取り込み量に対するdCKノックダウンの影響は,超短時間では認められなかったものの,一定時間以上では認められた.ピリミジン代謝拮抗薬シタラビン,ゲムシタビンは,dCKを阻害することによりDACの見かけの取り込み量を減少させることが示唆された.さらに,DACの見かけの細胞内取り込み量の経時変化に対するENT1, dCKの影響は,簡単な速度論モデルにて説明可能であった.薬物輸送や薬物間相互作用のより正確な機序解明につながれば幸いである.

[Note]

ミリセチンによる持続性阻害作用のヒト葉酸トランスポーター特異性

Yamashiro, T., et al., pp. 311−314.

 ミリセチンは,小腸で働くヒトの葉酸トランスポーター(hPCFT)に対して強い持続性阻害作用を惹起するフラボノイドである.今回,その作用のトランスポーター特異性を探るため,ラットPCFT(rPCFT)及び小腸で働くヒトのリボフラビントランスポーター(hRFVT3)を取り上げて検討を行った.その結果,両トランスポーター共にミリセチンによる持続性阻害を生じず,ミリセチンの作用がhPCFTに対する特異性の高い機構により惹起されていることが示唆された.特に,hPCFTとの間で高い相動性(87%)を有するrPCFTがミリセチン非感受性であることは驚きであり,また興味深い.そのメカニズムの解明が望まれるところである.一方で,汎用の実験動物であるラットをこの問題の解析には利用できず,臓器ないし個体レベルでの解析に際しての課題を抱えることとなった.なお,ミリセチンによる即時性阻害効果についても検討した.こちらは,hRFVT3はhPCFTと同様に感受性である一方で,rPCFTは持続性阻害の場合と同様に非感受性であった.この差異も興味深いところである.