Newsletter Volume 32, Number 3, 2017

展望

薬物動態研究へのイメージング技術の応用

分析・イメージングDIS委員(五十音順)
株式会社新日本科学 前臨床研究推進本部
鵜藤雅裕
株式会社LSIメディエンス 創薬支援事業本部 先端事業推進部
鍛冶秀文
千寿製薬株式会社 研究開発本部 薬物動態安全性研究所
河村章生
大正製薬株式会社 安全性・動態研究所 薬物動態研究室
木下幸之助
国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部
齊藤公亮
アステラス製薬株式会社 研究本部 薬物動態研究所 バイオイメージング研究室
野田昭宏
東京薬科大学 薬学部 病態生理学教室
長谷川 弘
第一三共株式会社 研究開発本部 薬物動態研究所
渡邉伸明

 薬物動態研究へのイメージング技術の応用について考えたいと思います.薬物動態研究は,投与された薬物の運命を明らかにする取り組みです.薬物は吸収,組織分布,代謝を経て,最終的に体外に排泄されますが,その過程で我々は,薬物・代謝物の濃度から時間的概念の速度論を用いて解析し,薬効や安全性を評価します.その基盤となるのは定量的な分析と,代謝物構造解析などの定性的な分析です.最近ではモダリティ(創薬手段)のトレンド変化に応じて,核酸やペプチドといった中分子,抗体のような高分子創薬の分析力も求められます.研究対象となる試料にも変化があります.生体に負担の少ない方法で得られる血液・血漿・血清などだけでなく,最近は実際の薬効や毒性の生じるターゲット組織への分布を測定する必要性が増してきています.同時にPK/PDの観点や最近の個別化医療への対応から,薬理的なマーカー物質の分析の必要性も高まっており,それらの生体内・組織内での存在も同時に評価することも重要視されています.

 イメージングは,その手法も年々進化しており,カラフルな画像のインパクトや分かりやすさから,注目を浴びている分野です.また,イメージング技術の一部は,実験動物を生きたまま試験できることから,近年の動物愛護への要求の高まりにも合致しています.このイメージング手法が,薬物動態研究においても活用されるようになってきました.ただし,解決されるべき,議論されるべき問題点も見られてきている状況で,それらは,ユーザーである研究者と機器を製造販売する機器メーカーが一緒に議論しながら,解決していくことが理想なのかもしれません.

 そこで8人の委員が一丸となって検討した結果,今年度の分析・イメージングDISでは,イメージング技術による分布の分析手法を取り上げることにしました.「創薬モダリティや薬効・毒性マーカーへのイメージング技術の応用」というシンポジウムを企画しましたので,以下に本シンポジウムの見所や,今回取り上げるモダリティ・イメージング技術について,DIS委員から簡単に紹介します.

 

今年のシンポジウムについて

河村章生

 夢として語られていたiPS細胞を用いた難病の臨床研究が開始され,乗用車のレベル3の自動運転は2017年にも実用化が始まる模様です.個人宇宙旅行についても間もなく現実の商品として提供されると予想されます.このような科学技術の進歩は,創薬に関わる分析技術・機器にも大きな貢献を見せています.本シンポジウムではポジトロン断層法(positron emission tomography, PET),in vivoイメージングシステム(IVIS™)及びイメージング質量分析法(imaging mass spectrometry, IMS)に着眼し,製薬企業の演者の先生から進歩の現況をご発表いただくとともに,直面する課題についてもご発信いただきたいと考えています.その後,演者の先生方に加えて各機器の関連企業の先生方とともに進歩の状況及び課題についてさらに掘り下げた議論ができる場を総合討論として設けたいと考えています.既にこれらの機器をご使用の方々には課題解決の何らかのヒントが得られ,また今後試験をご検討の方々への活用の手助けになるシンポジウムになればと考えます.

 

PETイメージング

野田昭宏

 PETイメージングの創薬への応用における利点としては,①使用できる標識核種に11Cや18Fがあり,薬物・生体分子などの標識に利用しやすいこと,②比放射能が非常に高く極微量で多くの放射線を出すため,標識分子の体内分布を高感度に定量できること,③放射線のエネルギーが高く透過性が高いため,動物・ヒト生体内のイメージングに適していること,などがあります.またその一方で不得手な部分や,画像データの解釈や取り扱いなど,注意しなければならない部分もあります.PETイメージングの特性を良く理解した上で適切な方法を選択して利用しないと,期待する成果が得られないことにもなりますし,誤った解釈により重要な判断を違えることにもなりかねません.本シンポジウムでは,PETイメージングを利用する上でのピットフォールになりそうな部分,例えば,PETイメージングの空間分解能など物理的特性に由来する問題や,得られる画像データの理解が十分でないために生じる誤解,あるいは装置やデータの取り扱いが複雑であることにより生じるリスクなどについて考え,理解を深めることで,PETイメージングの適切な利用につなげられ,そして創薬への有効活用が広がればと思います.

 

in vivoイメージングシステム(IVIS™)

渡邉伸明

 IVIS imaging systemは350~900nmの光を補足可能な高性能CCDカメラにより,生体内から発せられる非常に微弱な発光や蛍光を高感度で捕らえることができ,それにより生体内のターゲットの分布を検出できるという機械です.実際に検出された体表面における測定値からは,Tissue Diffusion Model理論により生体内の光源の強さとしてシミュレーションを行うことができ,その強さは対象の蓄積量と十分な定量性を保持していると言われています.測定にかかる時間も非常に短時間(1分以内)であることから,麻酔したマウスから経時的に連続したイメージ結果を得ることが可能であり,個体ごとのバラつきを気にすること無く個体内での動態を評価できる点に加え,実験動物数の削減にもつながる点も利点と言えます.また解析したデータを3D表示する機能もあることから,より正確な生体内組織分布を視覚化することが出来るようになっています.蛍光,発光での評価は,RIラベル化合物のように施設面や使用者の安全性での制限もないことが利点ではありますが,同時に自家蛍光や発光を持たない分子の場合,発光や蛍光を分子内に持たせる修飾が必要となり,小分子の場合は修飾によりその物性や化学的性質が変わってしまうという欠点もあります.現時点では,修飾による物性等への影響が少ないであろうと考えられる抗体等への使用が主流であり,それらの高分子の癌組織等への分布を検出することに用いられています.ただし,マウスなどの小動物にしか使用できない点,解像度が制限される点など,この手法における現時点での限界もあることは事実です.

 最近では,光イメージングと超音波イメージングを融合したMSOT(Multispectral Optoacoustic Tomography)という機器も市販され,より高い解像度でのin vivoイメージングができるようになってきました.こういったin vivoイメージングシステムの開発の発展が将来の薬物動態における分布評価で有用なツールになっていくことでしょう.

*B.W.Rice, et al., J Biomed Opt. 2001 Oct;6(4):432-40.

 

質量分析イメージング技術の創薬への活用

鍛冶秀文

 近年の質量分析イメージング技術の発展により,高分解能精密質量測定が可能となり,創薬研究における組織所見と薬物の局在分布評価が実現可能となってきています.さらに,バイオマーカー等の同時測定により,薬効・毒性評価の精度を高め,Proof of Concept(POC)への貢献が期待されています.

 PK/PD(TD)解析を行うには,従来の血漿中濃度に加え,標的組織での薬物動態について未変化体だけでなく,活性代謝物も加味して評価することが重要です.質量分析イメージング技術は,質量分析の特性を利用することで,RI標識化合物を用いることなく,かつ,未変化体及び代謝物を分離して組織分布画像を得ることが可能です.それ故,薬物の分布を可視化する次世代解析手法と期待されています.

 質量分析イメージング技術は,RI標識化合物を使ったオートラジオグラフィー法及び組織中濃度測定法と同様に主に非臨床試験で用いられると考えますが,組織等が採取可能な場合には臨床試験においてもその活用が想定されます.医薬品開発における質量分析イメージング技術の活用場面としては以下が挙げられます.①開発候補化合物の局在分布情報の早期取得:近年のRI標識化合物の合成は開発後期に実施されることが多いため,開発初期には組織分布情報が乏しいと思われます.開発プロジェクトの成功確度を高めるため,開発初期でも未変化体だけでなく代謝物を含めた組織分布情報の取得に貢献できると考えます.②微細組織における局在情報:解剖学的に複雑な臓器・組織(例えば,脳,腎臓等)における薬物分布の評価を行う上で有用と考えます.組織ホモジネートによる評価では欠落する可能性のある情報を得ることができます.③薬効メカニズム検証:薬効モデル動物において,標的部位におけるバイオマーカー(内因性の低分子化合物,ペプチド等)の変動を評価することでコンセプト証明に貢献できると考えます.④毒性メカニズム解明:動物での毒性発現部位における薬物及び代謝物の局在分布評価により,毒性メカニズムやヒト外挿性の考察をサポートすることに貢献できると考えます.本技術を創薬の現場で正しく活用するためには,機器の操作性,試料の前処理,画像解析,データ再現性等,改善すべき課題があります.

 

 最後に,本News Letterをお読みいただき,多くの薬物動態学会員の皆様に,イメージング技術の薬物動態研究への応用について興味を持っていただければ幸いです.皆さんの持っている疑問・質問を,本DISの方にあらかじめご意見をいただくようお願いします.それらは,年会の本シンポジウムの総合討論において取り上げたいと思います.(ご意見/ご質問は,分析・イメージングDIS 渡邉伸明 宛 watanabe.nobuaki.nc-JSSX-@daiichisankyo.co.jp
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