Newsletter Volume 30, Number 3, 2015

DMPK 30(6)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

イベルメクチンの角質移行メカニズムに関する検討

Miyajima, A., et al., pp. 385-390

 疥癬はヒゼンダニが皮膚角質に感染することで激しい痒みを引き起こす疾患である.イベルメクチン (IVM)は経口疥癬治療薬であり,吸収された後に皮膚へ移行し,ダニ駆除効果を示す.本研究では,このIVMの角質移行メカニズムを明らかにするため,ラットを用いて検討を行った.その結果,IVM経口投与後のWistarラットの背部,腹部,足底部の角質において,皮脂成分であるスクワレン濃度とIVM濃度に明らかな相関が認められた.さらに皮脂腺が未発達であるHWYラットにおける角質中IVM暴露量は正常な皮脂腺を有するWistarラットより顕著に低かった.これらの結果より,IVMは皮脂腺より分泌されて,角質へ移行することが示唆された.一方で,IVMは皮脂腺を介さない経路でも角質へ分布する可能性がある.今後,皮脂腺を介さない移行メカニズムや皮膚中IVM濃度に影響を与える要因について検討したい.

 

[Regular Article]

抗真菌剤アムビゾームRの小児深在性真菌症患者での体内動態

Ohata, Y., et al., pp. 400-409

 深在性真菌症は骨髄移植や化学療法後の小児で発症するとの報告があるが,その治療薬アムビゾーム®の小児体内動態は検討されていなかった.本研究では国内製造販売後臨床試験の小児患者データと母集団薬物動態解析手法を活用し,血中動態に民族間差や日本人成人―小児間差がないことを確認した.また臨床関係者の意見から,臨床現場では血中薬物濃度異常上昇と有害事象(低カリウム血症)発生の関連の有無について関心があると知り,検討範囲の体重や投与回数では薬物濃度上昇と有害事象発生に相関が認められないことを報告した.本研究が医療従事者に有用な情報となれば幸いである.加えて,薬物濃度推移の95%予測区間描画の方法としてHighest Posterior Density (HPD) region methodを引用した.このHPD region 法は,Visual Predictive Check などのモデル評価の新しい方法論として活用できると考えている.

 

[Regular Article]

産後早期における血中4β-水酸化コレステロールに基づくCYP3A活性はアムロジピンの血中動態に影響を与える

Naito, T., et al., pp. 419-424

 周産期における薬物の体内動態は,非周産期と比べて異なる.その原因のひとつとして,女性ホルモンが一部の薬物代謝酵素や薬物輸送担体の活性に影響を与えることが報告されている.上市されている医薬品の約40%の代謝に関与するCYP3A4では,妊娠後期をピークに酵素活性が上昇する.我々は産後早期におけるCYP3A活性について,その内因性バイオマーカーである血中の4β-水酸化コレステロールを指標に評価を行った.結果として,産後3週までは,CYP3A活性が出産時と同様に高値で推移することが確認され,CYP3A4の基質であるアムロジピンの血中濃度に影響を与えることが示された.近年,母子両者における母乳栄養の重要性が認識される中で,周産期におけるCYP3A活性と薬物動態との関係を評価することは,産後早期の女性における最適な薬物療法の確立への一助になると期待する.

 

[Regular Article]

がん3D細胞塊における,薬物代謝酵素発現調節経路の切り替わり

Terashima, J., et al., pp. 434-440

 ヒト体内のがん細胞から確立されたがん培養細胞は,これまで我々に多くの知見を与えてきた.一方で,培養細胞が体内のがん細胞と異なる性質を持つことが報告されている.培養細胞を3次元培養し,細胞塊を構築することによって,一部の性質がin vivoに近くなることが明らかにされており,我々はこの培養システムを用いて肝がん細胞における薬物代謝酵素,CYP1A1,CYP1A2の発現調節経路を解析した.

 2011年に発表した我々の論文では(Terashima et al, 2011),肝がん培養細胞にストレスを与えるとaryl hydrocarbon receptor(AhR)を介してCYP1Aの発現が上昇している.我々はin vivoのがん細胞が初期段階では血管ネットワークを持たないことから,常時ストレスに曝されていると考え,実験系が確立しているCYP1Aの解析から着手した.その結果,通常の2次元培養した肝がん細胞と,3次元培養した肝がん細胞ではCYP1Aの発現調節経路が異なることを見出した.この知見は,培養細胞が培養環境によって異なる経路で薬物代謝酵素の発現を調節することを証明したものであり,今後 in vivoでの抗がん剤代謝メカニズムなどの解析に大きな役割を果たすと考えられる.

 

[Regular Article]

無アルブミン血症ラットにおけるミコフェノール酸の薬物動態と薬効:タンパク結合率の影響に関するモデリング&シミュレーション

Yoshimura, K., et al., pp. 441-448

 免疫抑制薬であるミコフェノール酸(MPA)は,イノシンモノリン酸脱水素酵素(IMPDH)を阻害し,T及びBリンパ球の増殖を抑制する.本研究では遊離型 MPA濃度の意義について定量的に評価するため,無アルブミン血症ラット(NAR)を用いてMPAの血中濃度と同時にIMPDH活性を測定した.PK-PD同時モデル解析の結果,NARにおいて遊離型クリアランスはコントロールよりも高値を示すが,遊離型濃度のIC50はコントロールと同一で,MPAの感受性に変化はないことが明らかとなった.さらに,得られたPK-PDパラメータを用いたシミュレーションの結果,MPAの遊離型分率の増加に伴い,IMPDH活性は非線形的に低下することが示された.従って,血漿中MPA濃度に基づく投与量調節は,低アルブミン血症の患者では過剰曝露を引き起こす可能性が示唆された.今後,現在進行中の臨床研究を通して,遊離型MPA濃度及びIMPDH活性測定の臨床的意義について検討する予定である.