Newsletter Volume 37, Number 2, 2022

DMPK 43に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

代謝活性化を回避したトファシチニブ類縁体の合成および評価

Tateishi, Y., et al.

 医薬品の代謝活性化によって生成される反応性代謝物(RM)は重篤な副作用を引き起こす可能性があるため,医薬品開発においてRMの生成を回避するドラッグデザインは非常に重要である.我々は化学的な側面から医薬品の代謝活性化と毒性に関する問題に取り組んでおり,以前に抗HIV薬ネビラピンに関する研究を報告している(DMPK 35, 238-243, 2020).本論文では,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬トファシチニブ(TFT)のCYPによる代謝活性化とこれに由来する毒性を回避可能な類縁体の創製を目指した.TFTから生成するRMにはアルデヒド体とエポキシ体が知られているが,エポキシ体の生成を回避した類縁体ではCYP3Aのmechanism-based inhibitionおよびCYPを発現したHepG2細胞に対する毒性がTFTに比べて顕著に減弱したため,TFT誘発肝毒性にはエポキシ型RMが関与していると示唆された.さらにJAK3阻害活性を有する化合物も見出しており,これは低毒性TFT類縁体として有用と考えられる.

 

[Regular Article]

消化管間質腫瘍患者のイマチニブ治療における副作用発現及びトラフ値に対する薬物動態関連分子の遺伝子多型の影響

Maekawa, K., et al.

 メシル酸イマチニブはKITキナーゼの選択的阻害薬であり,切除不能・再発性の消化管間質腫瘍(GIST)に対し,高い治療効果を発揮する.一方で,本薬の血液学的毒性として好中球/白血球減少症や貧血等が,非血液学的毒性として浮腫や皮疹等が認められ,副作用発現の頻度は高く,その個体差も大きい.イマチニブのファーマコゲノミクス研究は,欧米人やアジア人のGIST患者を対象に広く行われてきたが,これまで日本人を対象とした報告はなかった.今回,イマチニブ治療を受けた日本人のGIST患者65名を対象に薬物動態関連分子の遺伝子多型35種をタイピングし,副作用発現との関連を解析した.ABCG2の多型(421C>A, Q141K)は,グレード2もしくは3以上の皮疹の発現率と有意に相関した.また,トラフ値の個人間変動に,SLCO1B3の多型(334T>G, S112A),及びSLCO1A2の多型(-1032G>A)が有意に関与していた.関連性が見出された多型に関しては,今後のバリデーション研究が必要である.

 

[Regular Article]

オロト酸トランスポーターとしてのヒトOAT10の機能的同定

Shinoda, Y., et al.

 オロト酸は,ピリミジン合成の中間体としてRNAの合成等に利用される栄養物質である.腎臓において部分的に再吸収されることが知られているが,近位尿細管上皮細胞の刷子縁膜に局在するURAT1がオロト酸輸送機能を有し,その再吸収に働くとみられている.その一方で,URAT1と同様に尿酸輸送機能を有し,尿細管上皮細胞の刷子縁膜に局在するOAT10についてもオロト酸輸送活性を持つ可能性が指摘されているが,十分な検証は行われていなかった.本研究では,ヒトOAT10の高いオロト酸輸送活性が見出され,腎尿細管でのオロト酸の再吸収に関与し得るレベルのものであることが示唆された.さらに興味深いことに,ラット及びマウスのOAT10については,オロト酸輸送機能が欠如もしくは極めて低下していることが示唆された.今後,腎臓でのオロト酸の再吸収について,OAT10の役割を含めてその機構が解明されることが望まれる.

 

[Note]

カニクイザルSLCトランスポーターの同定と解析

Uno, Y. and Yamazaki, H.

 SLCトランスポーターはgene familyを形成しており,ヒトでは薬物動態に重要な分子種が数多く同定され機能が解析されているが,医薬品開発で重要な動物種であるカニクイザルにおいては解析が不十分であった.そこで本研究では,重要なヒトSLCトランスポーターのオーソログを同定し解析したところ,カニクイザルSLCトランスポーターは対応するヒト分子種に高い相同性を示し,進化系統樹でヒトに近く,ヒト分子種に似た遺伝子・ゲノム構造および発現の組織特異性を示した.これらの結果から,解析したSLCトランスポーターは分子レベルでカニクイザルとヒトでよく似た特徴を有していることが示唆された.本研究は,カニクイザルの薬物動態を理解する上で有用な知見になるものと期待される.

 

[White Paper]

イメージング質量分析(IMS)のグローバルガイドライン策定に向けて
~医薬品の研究開発への活用を目指したグローバルサーベイの結果~

Solon, E., Tanaka, Y., et al.

 イメージング質量分析(Imaging Mass Spectrometry; IMS)は,標的への関与,組織分布,毒性,及び疾病メカニズムなどを理解することを目的に,医薬品の研究開発において利用頻度が増加している.しかし,IMSは比較的新しい研究技術であり,規制下での新薬開発を支援する技術として広く受け入れられるようになるには,さらなる検証が必要である.従って,学術界,製薬業界,及び規制当局がより一層の信頼関係を築き,最善策を提示することが重要であると考えられた.そこで,2つのIMS団体(日本:JAIMS,米国:IMSS)は,IMSの現状に関する情報を収集し,直面している課題を抽出するために徹底的なグローバル調査(データ取得,データ解析及び定量,データインテグリティ,レポーティング,創薬活用,及び規制対応など)を実施した.今後は医薬品の研究開発に使用されるIMSデータの信頼性を保つために,手順のバリデーション及びグローバル指針の作成を積極的に行っていくことが極めて重要である.