Newsletter Volume 36, Number 2, 2021

DMPK 37に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Review Article]

薬物動態関連遺伝子の次世代シークエンス解析アップデート:薬物代謝酵素及び薬物トランスポーター遺伝子のアンプリコン・シークエンシングプラットフォーム,PKseqの開発

Fukunaga, K., et al.

 次世代シークエンサー (NGS) は従来のサンガーシークエンサーに比べて,驚異的なスループット,高い拡張性及びスピードを兼ね備えており,近年,薬物動態関連遺伝子変異の探索研究への適用の試みがなされている.しかしながら,チトクロームP450等,サブファミリー内でのホモロジーが高かったり,コピー数多型が見られる複雑なゲノム領域に存在したりする遺伝子では,リード長が150 bp程度である全ゲノムシークエンシング (WGS) や全エクソームシークエンシング (WES) では網羅的かつ高精度な解析は極めて困難である.筆者らは,60種類の薬物代謝酵素,37種類の薬物トランスポーターを含む薬物動態関連100遺伝子の翻訳領域をマルチプレックスPCR法で濃縮し,リード長250 bpを用いてシークエンシングすることにより,遺伝子変異を高精度に検出することができるターゲット・リシークエンス解析パネル,PKseqを開発した.本パネルは正確性を有するのみならず,WGSやWESよりもコスト,時間及び解析負荷を低減することができ,ファーマコゲノミクス研究に加えて,臨床現場における遺伝子検査にも適用可能な強力なツールとなることが期待される.

[Research Article]

Adenosine deaminase acting on RNAによるヒトpregnane X receptor発現調節

Takemoto, S., et al.

 RNA上のアデノシン (A) がイノシン (I) に置換される現象であるA-to-I RNA編集はadenosine deaminase acting on RNA (ADAR) によって触媒され,遺伝子の機能や発現に変化を及ぼし得る.本研究では,様々な薬物代謝酵素の発現制御に重要な役割を果たす核内受容体pregnane X receptor (PXR) の発現が,ADARによって制御されている可能性を検討した.ヒト肝癌由来HepaRGまたはHepG2細胞におけるADARのノックダウンによって,PXRの発現量が有意に増加したことから,PXRがADARによって負に制御されることが明らかになった.また,それに伴ってPXRの下流遺伝子であるCYP3A4やUGT1A1の発現増加が認められた.さらに,ADARはPXRの3’-非翻訳領域を介してPXRの発現を転写後レベルで制御することが示された.ヒト肝臓におけるADAR発現量に約220倍の個人差があること (Nakano et al., J Biol Chem 291: 894-903, 2016) を以前の研究で明らかにしていることも踏まえると,本研究によってADARが肝臓における薬物代謝能の個人差を引き起こす一因である可能性が示された.今後は,in vivoにおける薬物動態制御におけるADARの意義を明らかにしていきたい.

[Research article]

ヒト肝細胞移植マウスを用いたフラビン含有酸素添加酵素3 (FMO3) 基質の相互作用

Shimizu, M., et al.,

 フラビン含有酸素添加酵素3 (FMO3) は医薬品や食品由来成分の酸素添加反応を触媒する代謝酵素である.近年,FMO3で代謝される医薬品が上市されている.一方,生体内におけるFMO3基質の体内動態における相互作用に関する情報は十分ではない.本研究では,医薬品イトプリドおよび安定同位体標識したトリメチルアミンをヒト肝細胞移植マウスにそれぞれ経口および静脈内投与し,その体内動態への影響を検討した.トリメチルアミンを高用量で併用した場合,イトプリドおよびその代謝物の血中濃度時間曲線下面積はそれぞれ有意に上昇および減少した.一方,低用量のトリメチルアミン併用時では,投与後,早期のイトプリド代謝物血中濃度に影響するにとどまった.海産の魚に多く含まれるトリメチルアミンを食事由来で摂取し,さらにFMO3基質となる医薬品を服用する場面を想定すると,相互作用は起こりうるが,その影響は限定的であると推察された.

[Short communication]

多価陽イオンおよびポリカチオンポリマー製剤はキレート相互作用を介してドルテグラビルの薬物動態に影響する

Enoki, Y. et al.,

 キレート相互作用は多くの薬物の消化管吸収を妨げる要因として知られている.最もよく知られているキレート相互作用は多価金属カチオン製剤との相互作用である.近年,金属カチオン製剤と相互作用を有する薬物はポリカチオンポリマー製剤とも相互作用することが報告されている.本研究では多価金属カチオン製剤との相互作用を有するHIVインテグラーゼ阻害薬のドルテグラビル (DTG) と炭酸ランタン (La),ポリカチオンポリマー製剤のセベラマー (Svl) およびビキサロマー (Bxl) との相互作用についてラットを用いた動態学的検討を実施した.ラットにDTGとLa,SvlまたはBxlを併用投与することでDTGのCmaxおよびAUCは有意な低下が認められた.これら相互作用は既存の相互作用が知られている水酸化アルミニウムゲルと同等であった.従って本研究結果は,ヒトにおいても同様に薬物間相互作用を考慮する必要性があることを示唆しており,臨床における新たな相互作用に関する情報となることが期待される.

[Short communication]

日本人2型糖尿病患者におけるSLC16A11ハプロタイプと脂質代謝との関連性

Kimura Y., et al.

 SLC16A11はモノカルボン酸輸送担体(MCT)ファミリーに属するオーファントランスポーターである.近年,SLC16A11の5つの一塩基多型(SNP)からなる5SNP haplotypeが2型糖尿病(T2D)の発症リスク因子として報告された.しかしながらSLC16A11の生体内機能は未だ明らかとなっておらず,SLC16A11とT2D病態との関連は分かっていない.そこで本研究では,T2D患者85名を対象として,SLC16A11遺伝子多型とT2D検査値との関連解析を行った.ダイレクトシーケンス法によりSLC16A11遺伝子多型を調べた結果,対象患者のうち,5SNP haplotype非キャリアは72名,キャリアは13名であった.非キャリア群,キャリア群のT2D関連検査値を比較すると,早朝空腹時血糖,総コレステロール,LDLコレステロールがキャリア群で有意に高値であった.SLC16A11遺伝子多型はT2D患者の糖や脂質代謝に影響を及ぼすことが示唆された.本研究の結果は,今後,T2D個別化治療やSLC16A11を標的とした新規治療に繋がる可能性があると考える.