Newsletter Volume 36, Number 2, 2021

若手が取り組む動態研究

お写真

足場タンパク質が形成するトランスポーターの細胞膜局在の日内変動

山口東京理科大学 薬学部 薬剤学・製剤学分野
鶴留優也

 ヒトをはじめとする多くの生物には体内時計が存在し,睡眠・血圧・ホルモン分泌など様々な生体機能を約24時間周期のリズムで変動させることによって,地球の自転に伴う外部環境の周期的な変化に効率よく適応している.このような日内変動機構は「時計遺伝子」と呼ばれる一連の転写因子群によって構成される転写・翻訳のフィードバックループがその本体であり,その下流に位置する機能性分子の転写活性に日内変動を形成している1).ここでいう機能性分子の中には薬物代謝酵素や薬物トランスポーターなども含まれており,例えばCytochrome P450やABCトランスポーターの転写に日内変動が生じることで,これらタンパク質の発現が時刻依存的に変化する結果,薬物の体内動態に投薬時刻による差を生じさせる2).このような薬物動態制御因子のみならず,薬物に対する生体の感受性の日内変動を考慮する手法が時間薬物療法である.至適投与タイミングに薬物を投与することで効果の増大や有害作用の軽減を指向した手法であり,様々な疾患に対してその有効性が認められている3).そのため,薬物動態制御因子の日内変動を理解・把握することは時間薬物療法において重要であるが,その日内変動メカニズムについては未解明な部分が多い.

 マイクロアレイなどを用いた網羅的遺伝子発現解析の結果から,哺乳類動物における全転写産物の約10%が24時間周期の発現リズムを示すことが指摘されている1, 4).しかし,生体機能や機能性分子の活性に認められる日内変動は,遺伝子の転写過程における日内変動だけでは説明ができない場合が多い.そこで近年では,転写後修飾やタンパク質の分解過程における日内変動制御の重要性が指摘され,タンパク質の安定性に着目した解析も行われてきた5).それでもなお,産生されたタンパク質が細胞膜や各オルガネラに輸送され,その機能を発揮する過程における日内変動の寄与については未解明であった.

 そこで筆者は,細胞膜における安定的な発現を下支えする足場タンパク質に着目した.足場タンパク質はトランスポーターの輸送活性や膜結合型酵素の活性制御に関わる他,受容体の細胞膜発現やシグナル伝達の安定化にも寄与することから,薬物の膜輸送や細胞外シグナルに対する感受性にも影響を及ぼす6).足場タンパク質の中でもSodium hydrogen exchanger 3 regulator factor 1 (NHERF1 / Slc9a3r1) は,薬物輸送トランスポーター,受容体,チャネルなどの膜タンパク質と結合し,それらの細胞膜における発現を安定化させる.筆者は,NHERF1をコードするSlc9a3r1遺伝子のmRNAの発現が,トランスポーターが高発現する組織内で日内変動を示すことを見出した.そこで,本研究では,足場タンパク質の発現リズムが膜タンパク質の細胞膜局在や機能にも影響を及ぼしているのではないかとの仮説のもと,NHERF1の発現リズムの制御機構とその制御機構が与えるトランスポーターの膜局在への影響を明らかにすることを目的とした7)

 本実験では,5週齢ICRマウスを明暗各12時間周期(明期:7:00~19:00,暗期:19:00~翌7:00),自由摂食飲水下で飼育し,2週間光環境に順化させた.本研究では蛍光灯照明で約200~300ルクスの環境で飼育した.その後,経時的に(4時間おき,9:00, 13:00, 17:00, 21:00, 1:00, 5:00の6時点)肝臓を摘出して各実験に用いた.

 マウス肝臓の膜画分を抽出してNHERF1のタンパク質発現量を定量したところ,明期中盤(13:00)にピークを示す有意な日内変動が認められた(図1A).NHERF1の細胞膜局在に日内変動が認められたことから,NHERF1と時刻依存的に結合する膜タンパク質の探索を行った.NHERF1 の発現が高値を示した13:00および低値を示した1:00において免疫沈降法を行ったところ,NHERF1はマウスの肝臓においても複数の膜タンパク質と結合していることが明らかになった.そこで,NHERF1の発現リズムに応じて結合量が時刻依存的に変動しているタンパク質に着目し,質量分析解析を行ったところ,複数の機能性タンパク質が同定された.その中で,長鎖脂肪酸の細胞内取込みを担うSLCトランスポーターの1つであるFATP5 / Slc27a5に着目した.FATP5の肝臓細胞膜における発現リズムの制御に局在過程以外の要因が関与してないのかを確認するため,Slc27a5 mRNAの発現およびFATP5の細胞全体と膜画分におけるタンパク質発現量の日内変動について検討を行った.

NHERF1の細胞膜発現リズムのA図とFATP5の細胞膜局在リズム・マウス肝臓切片におけるオレイン酸輸送活性の時刻による違いのB図

図1 NHERF1の発現リズムとFATP5の発現および輸送活性リズム

  • A)NHERF1の細胞膜発現リズム(縦軸はマウスのピーク値を100とした場合の相対値)
  • B上)FATP5の細胞膜局在リズム
  • B下)マウス肝臓切片におけるオレイン酸輸送活性の時刻による違い

その結果,マウス肝臓においてSlc27a5 mRNAの発現量と細胞全体でのFATP5の発現量には有意な日内変動は認められなかった.一方,膜画分におけるFATP5の発現量には明期中盤をピークとする有意な日内変動が観察され,肝細胞膜におけるNHERF1の発現リズムと同位相を示した(図1B上).また,マウス肝臓切片を用いたex vivoの取り込み実験によってFATP5の代表的な基質であるオレイン酸の輸送活性についても検討を行ったところ,FATP5への膜局在が高値を示す13:00において有意に上昇した(図1B下).これらの結果から,NHERF1の発現における日内変動は,FATP5の細胞膜局在にも影響を及ぼし,脂肪酸の取込み活性に時刻依存的な変動を引き起こしていることが示唆された.

 このNHERF1 / Slc9a3r1の発現リズムの制御機構を解析したところ,Slc9a3r1 mRNAの発現リズムは時計遺伝子PER2によって周期的に抑制されることを見出した.時計遺伝子PER2はCLOCK,BMAL1の二量体がE-box配列に結合することで転写される.自身の核内含量が多くなると,CLOCK,BMAL1のE-box配列への結合を抑制し,自身の転写を減弱させて24時間周期の発現変動が生じる.また,PER2は核内において時計遺伝子以外の様々な転写因子とも結合し,その転写活性を抑制することも知られている4).筆者らは,PER2がp65と時刻依存的に複合体を形成することで,p65の応答配列への結合を周期的に抑制することを明らかとした(図2A).さらに筆者らは,Per2遺伝子の機能不全マウス(Per2 m/mマウス)を用いてNHERF1の発現リズムを評価した.Per2 m/mマウスはPER2タンパク質の転写因子との結合サイトが変異している変異タンパク質を産生するため,24時間周期で起こる発現リズムが消失し,下流の転写抑制機構も破綻する.そのため,Per2 m/mマウスの肝臓におけるSlc9a3r1 mRNAおよびNHERF1のタンパク質の発現リズムは消失し,発現量は野生型マウスと比較していずれの時刻でも高値を示した(図2B).

時計遺伝子PER2によるSlc9a3r1遺伝子の発現リズム制御のA図と野生型とPer2m/mマウスの肝臓におけるNHERF1タンパク質の膜発現リズムのB図

図2 NHERF1 / Slc9a3r1遺伝子の発現リズム制御

  • A)時計遺伝子PER2によるSlc9a3r1遺伝子の発現リズム制御
  • B)野生型(左)とPer2 m/m(右)マウスの肝臓におけるNHERF1タンパク質の膜発現リズム

 NHERF1の発現リズムが変調した際に,膜タンパク質の発現や機能がどのような影響を受けるのかについては未解明であった.先の検討で,NHERF1はFATP5と時刻依存的に結合することで,FATP5の細胞膜局在や脂肪酸の輸送活性の日内変動を引き起こしていることを示した.そこで,野生型マウスおよびPer2 m/mマウスの肝臓におけるFATP5の細胞膜局在と脂肪酸取込み活性の時刻変動について検討を行った.Per2 m/mマウスの肝細胞全体におけるFATP5の発現量は野生型マウスと同程度であったが,膜画分においては野生型マウスでみられた時刻依存的な局在が消失し,いずれの時刻においてもFATP5の発現量高値を示した(図3A).Per2 m/mマウスの肝臓細胞におけるNHERF1とFATP5の局在を免疫染色によって視覚的に観察したところ,Per2 m/mマウスにおいては,NHERF1とFATP5の高い膜局在性が認められ,その発現量や局在性に野生型マウスで見られる時刻間の差異は認められなかった(図3B).また,野生型マウスとPer2 m/mマウスから肝臓薄切片を作製し,脂肪酸輸送活性の時刻差についても検討を行ったところ,野生型マウスで認められた肝臓内への脂肪酸取込み量の時刻による差異は,Per2 m/mマウスでは観察されず,その取込み量はいずれの時刻においても高値を示した.以上の結果から,時計遺伝子の発現リズムの変化はNHERF1の発現に影響を及ぼし,膜タンパク質の細胞膜局在のリズムも変容させることが示唆された.

Per2m/mマウスの肝臓におけるFATP5タンパク質の細胞膜発現変動のA図とB野生型マウスとPer2m/mマウスの肝臓におけるNHERF1およびFATP5の細胞内局在のB図

図3 NHERF1の発現リズムとFATP5の発現および輸送活性リズム

  • A)Per2 m/mマウスの肝臓におけるFATP5タンパク質の細胞膜発現変動
  • B)野生型マウスとPer2 m/mマウスの肝臓におけるNHERF1およびFATP5の細胞内局在

 投与時刻依存的な薬物の体内動態の違いには,トランスポーターの日内変動が深く関与している.これまでに明らかにされたトランスポーター発現の日内変動に関する制御メカニズムは主に転写や分解過程に着目したものであり,これらはmRNAやタンパク質の発現量自体に時刻依存的な変化があることに基づいていた2, 5).一方筆者らは,足場タンパク質に認められる発現リズムが,細胞内トランスポーターの総発現量に影響を及ぼすことなく,細胞膜へのトランスポーターの局在に時刻依存的な変化を引き起こす結果,そのトランスポーターの機能や基質化合物(薬物)の体内動態にも時刻依存的に影響することを明らかにした7).このことは,「細胞膜への膜タンパク質の局在リズム」という体内時計制御による新たな生理機能の日内変動の概念を提唱するものであり,この概念はトランスポーターや受容体などの膜タンパク質を標的とした製剤開発や薬物治療の最適化に発展できる可能性がある.また,NHERF1の発現リズムはp65タンパク質を介することから,炎症性の疾患においてはNHERF1の発現リズムが破綻していることが示唆される.今後は,炎症系疾患における足場タンパク質の発現リズム変調が引き起こすトランスポーターの膜発現変動に着目し,投与時刻依存的な薬物動態解析に基づく炎症系疾患の時間薬物療法の構築につなげていきたい.