Newsletter Volume 34, Number 6, 2019

学会 道しるべ

顔写真:森田真也

BioMedical Transporters 2019に参加して

滋賀医科大学 医学部附属病院薬剤部
森田真也

 2019年8月4日〜8日にスイスのルツェルンで開催された国際会議BioMedical Transporters 2019(https://www.bioparadigms.org/bmt2019/index.html)に参加しましたので,紹介させていただきます.この会議は,オーガナイザーであるMatthias A. Hediger先生(ベルン大学)のもと,1年おきにスイスのいずれかの街で開催されており,今回で11回目となっています.私自身としては,本会議でコオーガナイザーを務めておられる乾 賢一先生(京都大学・京都薬科大学名誉教授)からお誘いがあり,今回初めて参加させていただきました.会議は,ルツェルンの旧市街からバスで8分ほどのスイス交通博物館の中にあるホールで行われました.ヨーロッパ・アメリカ・アジアから200名を超える研究者が集い,日本からも16名が参加し,そのうち4名の方は企業からの参加でした.

 今回のテーマは“Membrane transporters and channels: From basic research to drug development and clinical application”であり,トランスポーター(チャネル)の生理的役割・疾患との関連,薬物標的,薬物動態・薬物間相互作用,個別化医療,立体構造解析,新技術開発など幅広い話題が議論されました.会議はHediger先生とGergely Gyimesi先生(ベルン大学)のオープニングレクチャーで始まり,“The National Centre of Competence in Research (NCCR) TransCure”というスイス国内の15の研究グループからなるトランスポーター/イオンチャネル研究ネットワークの紹介があり,トップレベルの研究グループが結びつくことによる強みを感じました.口頭発表56演題が14のセッションに分けられていましたが,企業からの発表も10演題と活発に行われていました.本会議では講演者・座長が男性と女性ほぼ同数で,“Women in Science”という女性研究者によるセッションもあり,各研究発表演題に加え,パネルディスカッションではサイエンスにおける女性研究者の立場についてデータを交えながら議論されました.私は脂質トランスポーター研究を専門としており,注目した講演として,Cristina Paulino先生(グローニンゲン大学)によるリン脂質スクランブラーゼTMEM16Fの機能メカニズムについての発表がありました.また,山中直岐先生(カリフォルニア大学リバーサイド校)は,ショウジョウバエにおけるステロイドホルモンの細胞取り込みに,有機アニオントランスポーターOatp74Dが関わっていることを報告されていました.日本からの招待講演として,金井好克先生(大阪大学)が腎臓のシステイントランスポーターについて,増田智先先生(国際医療福祉大学)が腎臓でのOCT2とMATEの相互関係について,楠原洋之先生(東京大学)がトランスポーターを介した薬物間相互作用を予測するための内在性基質について,それぞれ発表されていました.また,松金良祐先生(九州大学)の一般ポスター演題が口頭発表に選ばれ,子宮体癌でのプラチナ療法におけるMATE1の役割について報告されていました.

 各セッション間の休憩時間は30分もあり,参加者同士による情報交換を重要視されているように感じました.ポスターセッションは,全104演題で,その半分ずつを2日間に分けて行われましたが,ランチに続いた時間帯ということもあって,とても盛況でした.日本からの参加者も,10演題を発表していました.私自身は,毛細胆管膜にあるリン脂質トランスポーターABCB4の胆汁酸による活性化についてポスター発表を行いました.ABCB4は,胆汁酸の毒性から肝臓を守る働きをしている生理的に必須のトランスポーターですが,研究対象としてはメジャーとは言えないため,他の参加者から興味を持ってもらえるか不安でした.しかし,様々な国の多くの方から本質的な質問をしていただき,大変励みになりました.残念ながら,日本からの演題はポスター賞に選ばれませんでしたが,受賞した3演題はさすがにハイレベルなものばかりでした.

 Transporterの会議をするのにふさわしい名前のスイス交通博物館(Swiss Museum of Transport)は,日本でいうところの鉄道博物館にあたり,連日親子連れで賑わっていました.スイスは鉄道大国として知られ,19世紀からアルプスを巡る登山列車が走っており,日本と同じく鉄道が大人気のようです.

 中日にはエクスカーションがあり,シュタンザーホルンという標高1,898mの山に登りました.ルツェルンから鉄道でシュタンスという街に行き,そこからケーブルカーとロープウェーを乗り継ぎ,一気に山頂まで登りました.途中,鉄道からケーブルカーへの乗り換えの道中で,雨が激しく降り始め,ずぶ濡れになっていたところ,乾先生に傘に入れていただき助かりました.山頂ではアルプスの雄大な景色を眺めることができましたが,服装が半袖のシャツで濡れていたため,真冬のように寒く感じ,我慢できずに売店でフリースを購入しました.山登りには,傘と防寒具が必要だということをスイスで学びました.山頂のレストランでは,同テーブルとなった乾先生,鍋倉智裕先生(愛知学院大学),Klaus Werner Beyenbach先生(コーネル大学)と談笑しつつ,アルプラーマグロネンというジャガイモとマカロニをチーズで煮込んでアップルソースをかけて食べる高カロリーな料理をお腹いっぱいいただき,すっかり体も温まりました.

 最終日にはフェアウェルディナーが,19世紀に建てられた邸宅シャトーギュッチで開かれました.アルプホルンの演奏もあり,ルツェルンの夕景を眺めながら,和やかな雰囲気でディナーは進みました.翌朝の便でチューリッヒ空港から発つことになっていたため,最後のデザートをいただいた後,まだしばらく会は続きそうでしたが惜しみながらも会場を後にしました.

 私がスイスを訪れたのは今回が2回目でしたが,スイスは治安がよく,観光立国として国中がきれいに整備されていて,とても気に入っています.物価がとても高いのが唯一の難点ですが,高すぎて逆に無駄遣いをしなくて済みました.最近では,論文のオープンアクセス化が進み,ウェブから情報を簡単に入手できるようになりました.しかし,国際会議で得られる最新情報は,依然として貴重なものと思われます.BioMedical Transportersは,トランスポーター関連で最高峰の会議の一つと言ってよく,2年後もスイス国内で開催される予定ということですので,所属(大学・研究所・企業)にかかわらず興味がある方はぜひ参加されることをお勧めします.

写真1:会場となったスイス交通博物館
写真1. 会場となったスイス交通博物館.
写真2:シュタンザーホルン山頂レストランにて
写真2. シュタンザーホルン山頂レストランにて.左からKlaus Werner Beyenbach先生,乾 賢一先生,筆者.
写真3:シャトーギュッチにて
写真3. シャトーギュッチにて.左から松金良祐先生,金井好克先生,玉井郁巳先生,乾 賢一先生,Matthias A. Hediger先生,筆者,増田智先先生,楠原洋之先生.