Newsletter Volume 34, Number 6, 2019

DMPK 34(6)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

CYP3A4 grid-templateによるステロイド代謝反応の予測

Goto, T., et al.

 前報(DMPK 34 113 2019)で,主に多環炭化水素基質を用いて作成したCYP3A4 Templateの適応性を,今回50種以上のステロイド基質で検討しました.初めにステロイド基質の6位および7位酸化の違いを説明するために,Template上で起こるSlide-downとRight-side movement (Adaptation) を特定し,さらに両活性部位内移動現象に関わるFront-residueの役割を明らかにしました.ステロイド基質がTemplate上で占める厚さについても調べて,可能な厚みとheme-oxygenとの位置関係をWidth-gaugeとして定めました.これによって基質の被酸化部位はWidth-gaugeのほぼ中央から背部に位置する必要があり,取りうる位置からα/β酸化の立体選択性を予測可能なことがわかりました.CYP3A4はtestosteroneを主に1β-, 2β-, 6β-, および15β-水酸化体に,dihydrotestosteroneを18-および19-水酸化体に,progesteroneを6β-, 2β-, 16α-, and 21-水酸化体に変換します.Template上でこれらの反応が起こる配置を検討して,7種のPlacementに分類しました.これらの情報を用いてCYP3A4による胆汁酸,ステロール類および合成ステロイドの代謝も予測可能となりました.

[Regular Article]

小児注意欠陥・多動性障害患者を対象にしたグアンファシンの母集団薬物体動態解析及び曝露―反応解析

Tsuda, Y., et al.

 グアンファシン徐放錠(GXR)は,注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬であり,国内において児童及び青少年におけるADHDの有用な治療法の一つです.本研究では,小児ADHD患者対象の国内及び海外臨床試験の併合データを用いて母集団薬物動態解析を実施し,小児ADHD患者におけるGXR投与後のグアンファシンの薬物動態及びその影響因子について検討しました.年齢,体重,性別や民族差など薬物動態に対する影響因子が考えられましたが,体重がクリアランス及び分布容積に最も影響を与える共変量として選択され,体重の影響を共変量としてモデルに組み込むと,年齢,性別及び民族差は有意な変動要因となりませんでした.また,日本人小児ADHD患者において,ADHD RS-IV(注意欠陥・多動性障害評価尺度)のベースラインからの変化量と定常状態におけるグアンファシンの血漿中濃度時間曲線下面積が相関する傾向が認められました.本研究はグアンファシンの薬物動態及び曝露反応関係を把握する上で有用な研究であると考えます.

[Regular Article]

チロシンキナーゼ阻害剤パゾパニブによる短時間持続的なOATP1B1阻害

Taguchi, T., et al.

 パゾパニブは,強いOATP1B1阻害作用を示し,臨床においてもOATP1B1基質のAUCを上昇させる.そこで,パゾパニブによるOATP1B1阻害の特徴とAUCの上昇に関して評価した.パゾパニブはシクロスポリンと同様にプレインキュベーション時間依存的な阻害作用を示し,OATP1B1のKm及びVmaxをそれぞれ上昇及び低下させた.一方で,プレインキュベーションによって低下したOATP1B1活性は,シクロスポリンでは非常に緩やかに回復したが,パゾパニブでは速やかに回復した.最後に,パゾパニブのOATP1B1阻害に関するR値は1.09であった.パゾパニブは強い薬物代謝酵素阻害作用も有することから,OATP1B1基質のAUCの上昇は代謝阻害が主要因と推察された.現在,ガイドラインにおける臨床薬物相互作用試験実施の判断は,今回のような特殊な阻害様式を示す薬物も同一の式を用いて評価している.そこで,プレインキュベーション時間依存的なOATP1B1阻害による相互作用に着目し,新たな予測法を提案する論文を執筆中である.

[Regular Article]

RFVTs(SLC52A)によって担われる外側血液網膜関門のリボフラビン輸送

Kubo, Y., et al.

 網膜では,リボフラビン(ビタミンB2)がグルタチオン還元酵素の活性に関与して神経保護に寄与することから,血液網膜関門を介した循環血液から網膜へのリボフラビン供給が視覚機能の維持に重要と考えられる.前報(DMPK 32, 92-99, 2017)では内側血液網膜関門におけるリボフラビン輸送機構の詳細を報告したことから,本研究では外側血液網膜関門のリボフラビン輸送機構に関して検証を行った.外側血液網膜関門in vitroモデル細胞(RPE-J細胞)を用いた取り込み輸送解析では,リボフラビンの担体介在型輸送が示されるとともに,外側血液網膜関門を介した循環血液から網膜へのリボフラビン輸送が示唆された.さらに阻害解析とノックダウン解析の結果,リボフラビントランスポーターであるRFVT2(SLC52A2)とRFVT3(SLC52A3)が外側血液網膜関門のリボフラビン輸送を担うことが示唆された.以上の知見は,血液網膜関門を介した薬物-食物相互作用や薬物送達の向上に有用と期待される.

[Regular Article]

日本人高脂血症患者を対象としたアトルバスタチンの薬物動態および薬理遺伝学的特性を明らかにするためのマイクロドーズ臨床試験

Lee, N., et al.

 これまで我々は,マイクロドーズ(MD)試験の活用によるヒト薬物動態や相互作用リスクの把握等多様なアプリケーションを提示してきた.しかし,これらのほぼ全ては健常人を対象としてきた.本研究では,実際の高脂血症患者に対してMD・臨床投与量のアトルバスタチン投与後の血中動態を観察することで,患者集団でもMD試験が臨床薬物動態の予測に寄与しうるか,またOATP1B1, BCRPの遺伝子多型の影響がMDでも確認できるかについて検討した.その結果,MDと臨床投与量の間に血漿中AUCの一定の相関が認められ,薬物動態の個人差をある程度捉えてはいるものの,投与量で規格化したAUCは一致しないことから,薬物動態の非線形性が確認された.一方,OATP1B1の機能低下を引き起こすことが既知の変異(c.521T>C)を有する患者では,MDでも有意なAUC上昇が確認された.動態の非線形性といったMD試験特有の問題も顕在化はしたが,今後,例えば薬効の強い薬物について,患者へ投薬前に個々人の体内動態を安全に把握する手段としてのMD試験の活用が考えられる.本研究が,患者対象のMD試験の可能性を開く端緒になることを期待している.

[Note]

肺胞上皮細胞におけるメトトレキサート誘発性上皮間葉転換に及ぼす葉酸代謝経路の影響解析

Kawami, M., et al.

 臨床で汎用されるメトトレキサート(MTX)は,副作用として重篤度の高い肺障害を誘発する.一般に,MTXによる汎血球障害のような副作用に対しては葉酸のレスキュー投与がなされるが,MTX誘発性肺障害に対する葉酸の効果については不明な点が多い.我々は以前,MTXによって誘発され,かつ肺障害と関連の深い上皮間葉転換(EMT)が葉酸によって抑制されることを報告した.本検討では,MTXの薬理効果の標的であるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を介して還元生成されるテトラヒドロ葉酸の方が,葉酸と比べてEMTを強力に抑制することを見出した.さらに,DHFRノックダウン細胞を用いた検討から,DHFRはMTXによるEMTの誘発には関与しない一方,テトラヒドロ葉酸の産生を介してMTX誘発性EMTの抑制に寄与する可能性が示唆された.今後,動物モデルを用いたin vivo試験などによって,葉酸製剤を用いたMTX誘発性肺障害に対する新規防御法の構築を目指していきたいと考えている.

[Note]

アルプラゾラムに起因する新生児薬物離脱症候群の患児に対する生理学的薬物動態モデルを用いた薬物血中濃度評価

Yamamoto, K., et al.

 妊娠中の継続的なベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤の使用は,新生児薬物離脱症候群(NAS)の要因となる.しかし,BZ系薬剤の多くは,胎盤移行率や出生児の血中濃度が報告されておらず,NASを発症する患児の薬物動態学的な情報が得られていない.本研究では,妊娠中にBZ系薬剤であるアルプラゾラム(ALP)を定期内服した妊婦から出生し,NASの症状を呈した症例に対して,ALPの薬物血中濃度を継時的に測定した.本児の出生時の血漿中ALP濃度は,薬理作用を示しうる濃度であり,また,その消失は出生後日数の経過に伴い加速した.さらに,この血中濃度推移は,出生後の成熟を考慮した生理学的薬物動態(PBPK)モデルによるシミュレーションの90%予測区間の範囲内であった.本検討により,ALPに起因するNASを発症した患児の血漿中ALP濃度とその消失過程を確認することができた.また,PBPKによるモデル&シミュレーションは,採血が困難な患者集団における薬物血中濃度予測および毒性評価に有用である可能性を示した.今後も,多種の中枢神経作用を有する薬剤について,NASの発症と出生児の薬物血中濃度に関する知見を蓄積していきたい.