Newsletter Volume 31, Number 4, 2016

DMPK 31(4)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

日本人健康成人を対象としたプラスグレルの薬物動態学的および薬力学的検討

Umemura, K., et al., pp. 285-291.

 抗血小板薬Prasugrelは欧米で先行して開発され,急性冠症候群によるPCI施行患者に対し初回負荷用量(LD)60mg/維持用量(MD)10mgで適応を取得したものの,欧米で行われた第III相試験の結果から,出血の増加が懸念された.このため,日本国内の開発では,有効性を維持しつつ出血を軽減できる用量の設定が重要な課題であった.本論文では,健康被験者を対象とした単回投与試験(2mg~30mg),反復投与試験(2.5mg~10mg,7日間)の結果,いずれの用量でも忍容性が得られたこと,単回投与では20mg以上,反復投与では5mg以上で,十分な血小板凝集抑制作用が認められたことを報告した.実際,Prasugrelはこの試験の後,PCI施行患者を対象とした第II相試験,第III相試験により,LD 20mg/MD 3.75mgで十分な有効性と安全性を示し,2014年に国内で承認されている.本論文で報告した試験は,日本人に適したPrasugrelの用量を検討する最初の臨床試験として,非常に重要な位置付けを持っている.

 

[Regular Article]

再発性性器ヘルペスの治療開発のためのAmenamevir (ASP2151)の統合的な薬物動態-薬力学モデリングとシミュレーション

Takada, A., et al., pp. 323-332.

 Amenamevirは,ウィルスヘリカーゼ/プライマーゼ複合体をターゲットとした新規薬剤である.米国にて実施した再発性性器ヘルペス患者を対象とした第2相臨床試験のデータを用いたPPK/PD解析では,非臨床試験で観察された薬効の用量依存性が明確には示唆されなかった1).そこで,非臨床試験結果と臨床試験結果の乖離について検討するために,Amenamevirの非臨床及び臨床結果を同時に説明する薬物動態/薬力学 (PK/PD) モデルを構築した.本モデルでは,PKとPDを連結するためのバイオマーカーとして細胞を宿主としたウィルスプラーク減少法のデータを用い,薬効のエンドポイントである皮膚病変スコアに対して順序カテゴリカルロジットモデルを用いた非線形混合効果モデル解析を行った.

 皮膚病変スコアの時間推移は,ウィルスプラーク数と免疫による治癒反応である発症後経過時間を用いて説明された.本剤のヒトの薬効は用量に依存するものの,治癒反応も皮膚病変スコアを減少させる影響因子の一つとなり,再発性性器ヘルペスの治療薬の開発においては免疫による治癒反応と薬物による作用を区別したPK/PDモデル解析の有用性が明らかになった.

1): Clinical Pharmacology in Drug Development 3(5) 365−370