ニュースレター編集委員会より

はじめに

 収穫の秋,創薬の秋,薬物動態学の秋.日本薬物動態学会第40回年会に参加された皆様,古都京都ではどのような収穫がありましたでしょうか.人工知能や再生医工学,構造生物学といった最先端のサイエンスにただただ魅了された3日間でした.そんな中ふと,私の頭に浮かんだのが,外挿性―Extrapolation―という言葉.薬物動態研究者なら様々な場面で耳にする言葉です.久しぶりに広辞苑を開いてみると,外挿とは,既知のデータや情報に基づいて,その範囲外の値を推測・予測することとあります.薬物動態学の究極のゴール(の一つ)は,病気の,ヒトの,薬物動態を予測することですね.動物からヒトへの外挿,iPS分化細胞やオルガノイドからヒト組織への外挿,膜輸送体の分子構造から生体バリア透過性への外挿,正常から病態への外挿.最先端のサイエンスと薬物動態学の融合のもとでの外挿性のサイエンスの構築は,薬物動態学研究者の腕の見せ所かもしれません.

 さて記録破りの酷暑や自然災害に見舞われた今年の夏.こんな夏を誰が予測できたでしょうか.世界情勢の予測,気候変動の予測,地震の予測.創薬モダリティーの多様化によって,外挿性に基づく薬物動態予測も難しくなっています.私たちの経験値の先に,私たちの未来は外挿可能なのでしょうか.世の中は何かが変わりつつあり,数学の言葉を借りると,変曲点,不連続点に差しかかっていると言われています.外挿可能な未来はつまらないかもしれませんが,ヒト薬物動態予測のように予測精度が上がれば予め対策もできます.2025年もあっという間に残り2か月余りとなりました.歳を重ねるごとに加速する時の流れの中で,新たな未来予測の技を編み出したいものです.(M.T.)

【動態研究に取り組むNEW POWER】

  • 薬物動態学が育んだジェネラリスト ─ ホウ素DDS研究への挑戦(北岡 諭)

【今さら聞けない改変抗体の体内動態研究】

  • 第1回:序論:抗体の薬物動態の基礎(中川桂太朗,野口裕生,原谷健太)

【『創薬・開発研究を支える最新の研究基盤』Microphysiological systems(MPS)】

  • 第1回:序論:Microphysiological systemsの紹介(高間香織)

【DMPK 64に掲載予定の論文一覧】

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動態研究に取り組むNEW POWER

顔写真:北岡 諭

薬物動態学が育んだジェネラリスト ─ ホウ素DDS研究への挑戦

城西大学薬学部 薬品物理化学研究室
北岡 諭

 城西大学薬学部の北岡 諭と申します.このたび,日本薬物動態学会ニュースレター「動態研究に取り組むNEW POWER」への寄稿の機会を賜り,編集委員の皆様をはじめ関係各位に深く感謝申し上げます.

 私は2008年に星薬科大学薬学部に入学し,杉山 清教授(当時)主宰の薬動学研究室に所属しました.その後,同大学院へ進学し,2018年に博士(薬学)を取得しました.博士課程修了後は,米持悦生教授(現・国際医療福祉大学成田薬学部学部長)主宰の薬品物理化学研究室にて博士研究員として研鑽を積み,2019年より出身研究室(落合 和教授)に助教として着任しました.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

今さら聞けない改変抗体の体内動態研究

第1回:序論:抗体の薬物動態の基礎

中外製薬株式会社 研究本部 バイオ医薬研究部 DMPKG
中川桂太朗,野口裕生,原谷健太

中川桂太朗,野口裕生,原谷健太の顔写真

 はじめまして!new modalityの研究開発における薬物動態研究入門の第四弾は改変抗体になります.抗体医薬品の研究開発は著しい進展を遂げており,日米ともに100種類以上の抗体が医薬品として承認を受けています.適応疾患は多岐にわたり,がんをはじめとして自己免疫疾患や感染症に至るまで,幅広い領域で活用されています.さらに,近年は抗体が有する医薬品としての優れた特性をより高める改変技術が注目を集めており,次世代抗体医薬品の創出に向けた研究が活発化しています.本稿では,「今さら聞けない改変抗体の体内動態」シリーズの第1回として,抗体医薬品の薬物動態の基礎を概説するとともに,抗体の新たな可能性を切り拓く改変技術の動向について紹介します.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

『創薬・開発研究を支える最新の研究基盤』
Microphysiological systems(MPS)

第1回:序論:Microphysiological systemsの紹介

アステラス製薬株式会社 トランスレーショナル&バイオメディカル サイエンス
高間香織

 本号より,新企画『創薬・開発研究を支える最新の研究基盤』の連載がスタートします!

 AIをはじめとする先端科学技術の急速な進展は,様々な研究領域に大きな影響を与えており,医薬品の研究開発も例外ではありません.これまで「New modalityの薬物動態研究入門」シリーズでも触れられてきた高度な定量・定性分析技術や可視化技術に加え,ヒト・動物組織の機能を部分的に再現する高次培養技術,さらには数理モデリング手法などの利活用が進んでいます.

 今回の連載では,microphysiological systems(MPS)に焦点を当て,MPSの特徴や薬物動態・トランスレーショナル研究における活用方法について,具体的な研究事例も交えながら複数回にわたりご紹介していく予定です.ぜひご期待ください!・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

DMPK 64に掲載予定の論文一覧

 各論文のabstractおよび論文内容詳細については、以下のリンクをご覧ください.
Drug Metabolism and Pharmacokinetics | Vol 64, October 2025 | ScienceDirect.com by Elsevier

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