Newsletter Volume 38, Number 2, 2023

DMPK 49に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

末梢血単核細胞およびK562細胞の細胞内薬物濃度に及ぼすP糖タンパクの影響

Ito, K., et al.

 P-glycoprotein (P-gp)の発現量は薬剤抵抗性を示すリウマチ患者のリンパ球で健常者の2倍程度に上昇していることが報告されている.しかしリンパ球でのP-gpを介した薬物相互作用可能性についての情報は少なく,臨床現場から情報を求められていた.我々はP-gpに対し親和性の異なる3つのP-gp基質(弱いP-gp基質, Dexamethasone; 良いP-gp基質, Nintedanib, Apafant)およびP-gp発現量の異なる3つの血球細胞系K562細胞(P-gp発現量:K562< K562/Adr< K562/Vin)と健常者由来末梢血単核細胞(PBMC)を用いてP-gpを介した薬物相互作用の程度を検討した.P-gpの影響は,P-gpの良い基質であればあるほど大きく,P-gpの発現が高いほど大きかった.しかしながら,in vitroの検討から健常人や薬剤抵抗性を示すリウマチ患者程度のP-gp発現量であれば,P-gpの影響は限定的であることが示された.本結果はリンパ球に限らず,腸管上皮細胞等に比べP-gpが低発現の細胞種全般における薬物相互作用を考慮する上で参考となるものと考える.

 

[Regular Article]

国内有害事象報告データベース中の「スタチン不耐」とアトルバスタチン単独服用時の代謝責任酵素の遺伝子多型に伴う推定血・肝中高濃度の関連

Adachi, K., et al.

 アトルバスタチンをモデルとして「スタチン不耐」要因を調べると,責任代謝酵素チトクロムP450 3A基質/阻害薬による被相互作用がある.一方,国内有害事象自発報告データベース検索の結果,2004年からの本薬使用3345人中,単独投与は483人,うち258人が服薬中止を余儀なくされた.本薬服用後60日以降,肝毒性等の累積事象発現率は,見かけ上投与量に依存した.多様な内的要因に責任酵素の遺伝的機能低下の関与も推定される.ミレニアムプロジェクトにて日本人を対象に見出したCYP3A4*16 (rs12721627)は,東北メディカルメガバンクにてアレル頻度2.2%と確認されている.組換えCYP3A4.16の低下アトルバスタチン固有クリアランス値を組込んだ薬物動態モデルでは,本薬40mg経口投与後,血中最大濃度と濃度曲線下面積は3.3倍と4.2倍に上昇し,さらに肝中薬物高濃度をもたらした.本薬理遺伝学的仮説では,単独服用でも併用薬共存下の禁忌レベルの内部曝露となることから,本邦ファーマコゲノミックス情報の蓄積と臨床での利活用が期待される.

 

[Regular Article]

日本人におけるアロプリノール誘発性Stevens-Johnson症候群および中毒性表皮壊死融解症の発症に関連するHLA-B*58:01のサロゲートマーカーを用いた遺伝子診断の分析法バリデーション

Tsukagoshi, E., et al.

 重症薬疹のStevens-Johnson症候群および中毒性表皮壊死融解症(SJS/TEN)は,発症回避のための予測法確立が重要である.これまでに,SJS/TENの発症とヒト白血球抗原(HLA)との関連が報告されているが,HLA型診断は費用と時間がかかることもあり,いまだ臨床応用されていない.本研究では,アロプリノールによるSJS/TENの発症との関連が知られているHLA-B*58:01と絶対連鎖不平衡にある一塩基多型(rs9263726G>A)を対象に,核酸クロマトグラフィー法による,より簡便で迅速な遺伝子診断法を開発し,分析法バリデーションを行った.アロプリノールによるSJS/TEN発症者28名の核酸クロマトグラフィー法によるrs9263726のジェノタイピング結果は,TaqMan法による結果と完全に一致した.また,分析法バリデーションの結果,本試験法は再現性が高く,検出感度が鋭敏で優れた試験法であることを示した.我々の構築したrs9263726を検出する核酸クロマトグラフィー法は,日本人のHLA-B*58:01のサロゲートマーカー検出法として有用であると期待される.