Newsletter Volume 33, Number 4, 2018

DMPK 33(4)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

実臨床でのリバーロキサバン服用患者における各種バイオマーカーの分布特性,ならびにバイオマーカー間の関連特性に関する研究

Suzuki, S., et al., pp. 188-193

 本研究は,リバーロキサバン投与中の心房細動患者を対象に行ったPPK/PD解析である.リバーロキサバンのクリアランスには,クレアチニンクリアランス(CCR),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),CYP阻害薬が関与しており,吸収代謝経路をきれいに反映した結果を得た.一方で,リバーロキサバン血中濃度とプロトロンビン時間には密接な関係を認めるものの,その関係に関与する臨床背景因子として解釈可能なものは同定されなかった.おそらく凝固因子活性の個体差が関与しており,臨床背景因子はサロゲートマーカーに過ぎないのだろう.今回の症例は比較的低リスクだったため,今後はハイリスク患者でのモデル,あるいは,高齢者に多いポリファーマシーを考慮したモデルなど,実臨床の課題に即したモデル作成を行うことができればと考える.最後に,PPK/PD解析をサポートして下さったサターラ合同会社の笠井先生に心より感謝申し上げる.また,谷河先生を通して日本臨床薬理学会シンポジウムでの貴重な発表の機会をいただけたことは無上の感激であり,この場を借りて感謝申し上げる.

[Regular Article]

ビスフェノールA(BPA)はKeap1のニトロシル化を介してNrf2依存性に薬物代謝酵素を誘導する

Nakamura, M., et al., pp. 194-202

 BPAはプラスチックの可塑剤等に用いられ,低濃度ではあるが日常的に暴露されている化合物である.最初BPAは内分泌かく乱作用がある物質として検討されたが,通常ヒトが暴露される濃度では安全であると結論された.しかし最近では低濃度でも長期暴露によって神経系に影響が出るとの報告もある.筆者らのグループもカエルのオタマジャクシ(ほとんど異物代謝の活性がない状態と考えられる)に対して比較的低濃度でも,ある特定の時期に暴露すると奇形などの異常が現れることを明らかにした.当該論文ではヒト肝がん細胞(Hep3B)を用いてBPAが細胞質のCa2+濃度を上昇させ一酸化窒素合成酵素を活性化することでNOを発生させ,様々な薬物代謝酵素や薬物トランスポーターを誘導するNrf2の発現を増加することを明らかにした.当初BPAのターゲットとしてTRPチャンネルを想定したが,そうではないらしいことが明らかとなった.現在BPAが細胞質のCa2+濃度を上昇させるメカニズムを検討している.

[Regular Article]

miR-141-3pはヒトUGT1A分子種ごとに異なるメカニズムで発現を制御する

Tatsumi, N., et al., pp. 203-210

 UGT1A分子種は第相反応に関わる重要な薬物代謝酵素の1つである.ヒトの肝臓においてタンパク質およびmRNAの発現量との間に相関関係が認められないことから,負の転写後調節因子であるmicroRNAの関与が考えられた.microRNAは主に3’-非翻訳領域(3’-UTR)に結合しその機能を発揮するが,UGT1Aは分子種間で共通する3’-UTRを有するため,全UGT1A分子種が同じmicroRNAで発現制御されている可能性が推察された.我々はルシフェラーゼアッセイによりmiR-141-3pがUGT1A 3’-UTRを認識することを明らかにした上で,miR-141-3pがヒト肝がん由来HuH-7細胞およびヒト結腸がん由来Caco-2細胞における内因性UGT1Aの代謝活性を負に制御することを見出した.さらに,miR-141-3pはUGT1A9の翻訳を抑制する一方,UGT1A1,UGT1A3,UGT1A4,UGT1A6およびUGT1A7に対してはmRNAの分解を促進することを明らかにした.本研究により,薬物代謝において重要な役割を担うUGTの発現にmicroRNAが関与することが明らかになり,薬物動態制御における転写後調節の重要性について有用な知見を得ることが出来た.

[Note]

2D細胞と3D細胞におけるベンゾ[a]ピレンによって活性化されたAhRのCYP発現調節の違い

Terashima, J., et al., pp. 211-214

 我々は2015年に,肝臓がん細胞でのAhRの転写調節ターゲットは,2D培養時と3D培養時で異なることを報告した(DMPK 30, 434-440).今回の報告は,肺がん細胞におけるAhRの転写調節ターゲットの違いについて報告する.AhRはベンゾ[a]ピレン(B[a]P)の結合によって活性化し,肺においてがんを誘導する事が知られている.我々は,がん誘導後,肺がん細胞においてAhRがどのような役割を持つか,特に喫煙の継続によって,含まれているB[a]PがAhRを介して肺がん細胞にどのような影響を与えるかに着目して解析を行っている.その解析の中で,B[a]Pによって活性化されたAhRは,2D培養時と3D培養時で転写調節ターゲットが異なり,CYPの発現調節パターンが異なることを見出し,今回報告する.今後は,肺がん3D細胞におけるAhRの転写調節ターゲット遺伝子群の解析を行い,肺がん細胞でのB[a]P/AhRの影響を明らかにする予定である.