Newsletter Volume 40, Number 4, 2025

技術・研究材料紹介(企業広告)

ヌクレオチド分析における金属吸着の抑制による再現性および定量性の向上

株式会社島津製作所 分析計測事業部

はじめに

 一般的にHPLCの流路配管に用いられるステンレス鋼は耐圧性,耐食性共に優れていますが、金属のため、りん酸基を持つ化合物との相互作用が起こり、ピークの形状悪化や強度低下を引き起こすことがしばしばあります。この金属吸着を抑制するために、りん酸などによる流路洗浄や、キレート剤の添加、高濃度試料によるマスキングなどが行われます。しかし、このような処理を施したとしても、再現性の高い分析結果を得ることは困難です。

 本報では、試料と金属が接触しない「メタルフリー流路」を実現した超高速液体クロマトグラフ “Nexera XS inert” システムと、ステンレスカラムボディ内面をPEEK素材でコーティングした「メタルフリーカラム」を使用し、ヌクレオチドなどりん酸基をもつ化合物に対する吸着抑制効果について紹介します。

試料および分析条件

 りん酸基を持つ化合物としてヌクレオチド(アデノシン一りん酸(AMP), アデノシン二りん酸(ADP), アデノシン三りん酸(ATP))を用いました。試料はすべて水で溶解、希釈し調製しました。金属吸着の影響を評価するため、表1に示すシステムとカラムを用い、一般的な金属配管を用いる「メタル流路」と「メタルフリー流路」を構築しました。分析条件を表2に示します。

表1 システム構成
  システム カラム
メタル流路 Nexera XS Shim-pack™ Scepter C18-120
メタルフリー流路 Nexera XS inert Shim-pack Scepter C18-120 [metalfree]
表2 分析条件
System Nexera XS inert
NexeraXS
Column Shim-pack Scepter C18-120 [metalfree] *1
(100mm×2.1mm I.D., 3μm)
Shim-pack Scepter C18-120 *2
(100mm×2.1mm I.D., 3μm)
Mobile Phase Acetonitrile / 10mmol/L ammonium formate solution=0.5:99.5
Flow Rate 0.2mL/min
Column Temp. 40˚C
Vial TORAST™-H Bio Vial (Shmadzu GLC) *3
Injection volume 2μL
Detection 254nm (SPD-M40, UHPLC inert cell)

*1 P/N 227-31073-02, *2 P/N 227-31014-05, *3 P/N 370-04350-00

ピーク形状および面積値再現性の比較

 AMP、ADP、ATPの混合標準溶液(50μg/mL)のクロマトグラムを図1、2に、混合標準溶液を10回分析したときのATPのピークのシンメトリ係数および面積値の推移を図3、4に示します。メタル流路のシステムでは、金属吸着によりピークがテーリングし、シンメトリ係数が4程度と大きくなりました。また、試料の注入を重ねる度に、ATPのピーク面積値の増加が確認されました。これに対し、メタルフリー流路のシステムでは、ピーク形状の改善が確認され、シンメトリ係数が約1という結果が得られました。また、メタル流路のシステムに比べ面積値が増加し、1回目から10回目の面積値はほぼ変化せず、高い再現性を示しました。これらの結果から、メタルフリー流路のシステムで分析することで金属吸着を抑制し、ピーク形状や面積値再現性を改善することが分かりました。

図1 メタル流路で測定したAMP、ADP、ATP混合標準試料のクロマトグラム(50μg/mL)
図2 メタルフリー流路で測定したAMP、ADP、ATP混合標準試料のクロマトグラム(50μg/mL)
図3 注入回数によるATPのシンメトリ係数の推移
図4 注入回数によるATPのピーク面積値の推移

ヌクレオチド標準試料の分析における定量精度の比較

 ATPの標準溶液(1、2.5、5、10、25、50μg/mL)を表1の条件で測定し(n=6)、検量線を作成しました。メタル流路のシステムで測定し得られた検量線では、金属吸着の影響により直線性が低下し、寄与率r2=0.9918でした(図5)。

 各検量点の真度および精度を表3に示します。
1μg/mLのピークは検出できませんでした。また、2.5μg/mLにおいては検出はできましたが、ピーク強度が不十分なため、濃度値のばらつきが大きいことがわかりました。

 QCサンプルとして2、20、45μg/mLの試料を調製し、図5の検量線を用いて定量しました。定量結果、定量値の真度、および精度を表4に示します。メタル流路のシステムでは金属吸着の影響を受けたことにより、特に低濃度域での直線性が低くなった検量線を用いたことから、定量値が大きく外れました。

 一方、メタルフリー流路のシステムで測定し得られた検量線では、金属吸着の抑制効果が発揮されたことにより、メタル流路のシステムを用いた際の測定結果に比べ、良好な直線性(寄与率r2=0.9999)が得られました(図6)。

 メタル流路のシステム同様に測定した、メタルフリー流路のシステムを用いた際の各検量点試料の真度および精度の結果を表5、QCサンプルの定量結果を表6に示します。メタル流路のシステムを用いた際の結果に比べ、低濃度試料においても真度、精度ともに良好な結果を得ることができました。以上の結果から、流路のメタルフリー化は、ヌクレオチドなどりん酸基を持つ化合物の分析において有効であることが示されました。

図5 ATPの検量線(メタル流路)
表3 検量点の定量値、真度および精度(メタル流路)
Conc.(μg/mL) Intra-Assay (n=6)
Measured Conc.
(μg/mL)
Accuracy
(%)
Precision
(%)
1 N.D.*
2.5 2.28 91.0 110
5 5.29 106 4.9
10 8.65 86.5 7.1
25 22.7 91.0 6.3
50 51.3 103 3.6

* N.D.: Not Detected

表4 QCサンプルの定量結果、真度および精度(メタル流路)
Conc.(μg/mL) Intra-Assay (n=6)
Measured Conc.
(μg/mL)
Accuracy
(%)
Precision
(%)
2 4.53 226 1.6
20 18.4 91.9 5.7
45 46.4 103 3.3
図6 ATPの検量線(メタルフリー流路)
表5 検量点の定量値、真度および精度(メタルフリー流路)
Conc.(μg/mL) Intra-Assay (n=6)
Measured Conc.
(μg/mL)
Accuracy
(%)
Precision
(%)
1 1.07 101 0.61
2.5 2.43 97.0 0.50
5 4.82 96.4 0.28
10 9.74 97.4 0.24
25 24.9 99.4 0.81
50 50.6 101 0.095
表6 QCサンプルの定量結果、真度および精度(メタルフリー流路)
Conc.(μg/mL) Intra-Assay (n=6)
Measured Conc.
(μg/mL)
Accuracy
(%)
Precision
(%)
2 2.00 100 0.59
20 19.6 98.2 0.081
45 44.9 99.7 0.11

まとめ

 本報では、ヌクレオチド分析における金属吸着の影響について評価しました。ステンレス材質を使用したシステム、カラムと比較し、流路をメタルフリーにすることで、りん酸基を持つ化合物を正確かつ再現良く分析することができました。従来ではりん酸基を持つ化合物分析をステンレス材質のシステムやカラムを用いて分析する際は、金属吸着を抑制するための処理が必要でしたが、Nexera XS inertとShim-pack Scepter C18メタルフリーカラムを組み合わせて用いることで、金属抑制処理が不要で高感度・高精度な分析が可能であることが示されました。

Nexera、Shim-packは、株式会社島津製作所の日本およびその他の国における商標です。
本文中に記載されている会社名および製品名は、各社の商標および登録商標です。
本文中では「TM」、「®」を明記していない場合があります。

本資料は発行時の情報に基づいて作成されております。

株式会社島津製作所 分析計測事業部 Solutions COE

超高速液体クロマトグラフ
Ultra High Performance Liquid Chromatograph

Nexera XS inert

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株式会社島津製作所 分析計測事業部