Newsletter Volume 39, Number 3, 2024

動態研究に取り組むNEW POWER

顔写真:宮元敬天

低体温療法時の薬物投与最適化に向けて

長崎大学 生命医科学域(薬学系) 薬剤学分野
宮元敬天

はじめに

 長崎大学生命医科学域(薬学系) 薬剤学分野の宮元敬天と申します.この度は,日本薬物動態学会ニュースレター「動態研究に取り組むNEW POWER」へ寄稿する機会を頂戴し,編集委員の皆様をはじめ,関係者の方々に感謝申し上げます.私は2004年に長崎大学薬学部に入学し,学部4年生からは中村純三先生(当時)が主宰される薬剤学研究室に配属となり,薬物動態研究がスタートしました.2008年には長崎大学大学院医歯薬学総合研究科博士前期課程に進学し,2013年3月に学位を取得しました.

 本稿では私のこれまでの研究の振り返りと実務家教員としての取り組みを紹介させていただこうと思います.

学生時代からの研究

 高校生の時に通っていた個別指導塾の先生が福岡大学薬学部に在籍されており,薬学部で何をしているかなどを聞いているうちに興味を持ち,薬学部への進学を決意しました.薬学部で多岐にわたる分野の講義を受けているうちに,一番興味を持った薬剤学を担当されていた薬剤学研究室(当時:中村純三教授)への配属を希望し,研究生活をスタートいたしました.

 配属後に研究テーマを決める際,「低体温療法時における薬物動態変動要因の解析」を希望し,このテーマで研究をさせていただけることになりました.低体温療法は心停止蘇生後の患者に対して脳保護目的にて実施される治療法です.この治療法については,中学生の頃に新聞の連載医療特集を通じて知りました.しばらくして,従兄弟が事故に遭い低体温療法を受けることになり,この治療を目の当たりにしました.幸いにも従兄弟は無事回復し,その効果を身近に実感することができ,これらの経験が低体温療法中の薬物動態変動要因の解析に関する研究を行う動機となりました.

 低体温が薬物動態に与える影響として,薬物トランスポーターや薬物代謝酵素の活性のような生化学的変化と組織血流量などの生理学的変化が考えられますが,通常の動物実験ではこれらの要素を分離評価することが困難でした.しかし,培養細胞などを用いたin vitro実験では条件制御は容易なものの組織構造を有していないという問題がありました.そこで,臓器灌流実験で血流量や温度を任意の条件に維持したまま,肝臓での薬物の取り込みや排泄を評価することとしました.この解析より肝臓における薬物トランスポーター活性や代謝酵素活性が低体温時に低下することを明らかにしております.(Miyamoto H. et al., J. Pharm. Pharmacol. 2013)

 さらに,低体温療法中に汎用される鎮静薬であるミダゾラムの血中濃度が変化することがヒトにおいて報告されていましたが,その詳細な要因は未解明であったため,要因解析を行いました.ミダゾラムは代表的な薬物代謝酵素であるCYP3Aによって代謝されるため,CYP3A活性に及ぼす温度低下の影響を評価したところ,温度低下に伴い酵素活性の減少が認められました.さらに,ラットにてミダゾラムの体内動態を評価したところ,体温低下時に血中濃度が上昇した一方で,臓器組織中濃度は変化せず,代謝能の低下以外に変動要因があると予想されました.ミダゾラムの臓器組織への移行を変化させる要因を解析したところ,アルブミンとの結合率が低下することを明らかにしております.(Miyamoto H. et al., Biopharm. Drug Dispos. 2016)

実務家教員として

 2016年より長崎大学病院診療補助従事者(薬剤師)として,長崎大学病院薬剤部にて薬剤師業務に携わらせていただくとともに,長崎大学病院で行われる本学5年生の実務実習(病院実習)の担当をさせていただくこととなりました.2年目までは内服薬や注射薬の払出業務や中心静脈栄養の輸液混注業務などを行い,3年目からは病棟における薬剤管理指導業務も行うこととなりました.さらに,TDMを行う部署での業務も行わせていただけるようになり,大学病院内で幅広い業務を経験させていただき,現在は実務家教員として病院実習の担当も行っております.

 このような経験の中で,薬物動態が薬剤師の強みであることをより強く意識するようになり,学生には薬物動態の知識を活用できる薬剤師になってもらえるような教育を行えないか試行錯誤しております.そのひとつとして実習生には実習中に興味を持った医薬品に関して同種同効薬の一覧を作成してもらい,添付文書より体内動態の情報や化合物の物性を収集し,まとめる課題に取り組んでもらっています.まとめる上で,体内動態に関する情報を基にどのような背景を有する患者に適しているか,どのような医薬品との併用に注意すべきかを考えて情報として記載するように指示をしております.このような課題を通して,薬物動態の知識を深め実際に活用できる薬剤師を育成できるように教育にも尽力したいと考えております.

おわりに

 教員として経験を積ませていただいている中で,新たに実務家教員として臨床にも関わらせていただける機会を頂きました.薬物動態は基礎研究としても重要な位置づけの分野だと考えておりますが,臨床においても薬剤師の職能を示す上で大切なものであると臨床経験を積む上で痛感いたしました.今後も薬学の強みといえる薬物動態研究を通して医薬品の適正使用に貢献できるように尽力したいと考えております.

 今後ともご指導を賜りますよう何卒よろしくお願いいたします.