Newsletter Volume 37, Number 4, 2022

若手が取り組む動態研究

顔写真:黒澤俊樹

トランスポーターの機能から見るヒトiPS細胞由来血液脳関門モデルの有用性

帝京大学 薬学部 薬物動態学研究室
黒澤俊樹

 我が国では,認知症や統合失調症などの中枢疾患に有効な治療薬の開発と治療方法の確立が喫緊の課題である.中枢への薬物輸送は血液脳関門 (Blood-Brain Barrier; BBB) におけるトランスポーターや受容体などの機能性タンパク質の働きが大きく影響することから,ヒトBBBの機能を再現したモデル細胞の確立が望まれてきた.これまでに初代培養細胞や不死化細胞が樹立されてきたが,供給の不安定さや細胞間の密着結合性の欠乏などの問題を抱えている.近年,LippmannらによってヒトiPS細胞から脳毛細血管内皮細胞を分化する技術が開発され,彼らの方法で作製されたヒトiPS細胞由来脳毛細血管内皮細胞 (brain microvascular endothelial cells derived from human induced pluripotent stem cells; hiPS-BMECs) が強力な密着結合性を有していることから,新たなヒトBBBモデルになると期待されている1,2).この分化誘導法の最大の特徴は内皮前駆細胞を神経前駆細胞と共分化させる点にあり,神経前駆細胞から分泌されるWnt/β-catenin signaling activatorのWnt7aおよび7bなどが作用することによって内皮細胞がBBBの性質を獲得すると考えられている.さらに,BBBの成熟を促すためにretinoic acidやbasic fibroblast growth factorを添加することで,強固な密着結合を形成するhiPS-BMECsが得られる (図1).様々な分野での応用が期待されるhiPS-BMECsであるが,創薬スクリーニングにおいて重要となる機能性タンパク質の発現や機能についての詳細は評価されていない.そこで我々は,BBB輸送に関わるトランスポーターについてhiPS-BMECsにおける発現および機能を解析した.さらに,ヒトBBBの微小環境を再現させるため,hiPS-BMECsを用いた3次元フロー培養システムの開発に着手した.

図1 hiPS-BMECsの分化誘導方法

 はじめに,トランスウェルを用いた2次元培養時のhiPS-BMECsにおいて密着結合能を評価した.細胞間隙透過マーカーであるlucifer yellowの血液側から脳側への見かけの透過係数Pappは0.1×10-6 cm/sec以下であり,細胞無しの条件と比較して99%以上透過が制限されていた (図2A).経内皮電気抵抗値 (TEER) は2000-3000Ω×cm2の値を示し,密着結合の形成タンパク質であるclaudin-5,occludinおよびZO-1の発現も確認されたことから (図2B),hiPS-BMECsが強固な密着結合能を有していることを再確認した.hiPS-BMECsはヒトBBBモデル細胞の中でも極めて密着結合能が高く,不死化細胞では不可能であったBBBの物理的障壁を再現できる細胞であった.また,hiPS-BMECsに発現するトランスポーターのmRNA発現プロファイルはヒト単離毛細血管の報告値と近似しており,ヒトBBBと同等のトランスポーター発現プロファイルを示すことが示唆された (図2C).次に,各種トランスポーターの機能を評価するために,薬物または内因性基質を用いて透過実験を実施した.その結果,monocarboxylate transporter 1 (MCT1/SLC16A1) , cationic amino acid transporter 1 (CAT1/SLC7A1),L-type amino acid transporter 1 (LAT1/SLC7A5) などのSLCトランスポーターでは血液側から脳側への供給方向の流れ (net flux) が,breast cancer resistance protein (BCRP/ABCG2) やmultidrug resistance-associated protein 5 (MRP5/ABCC5) などのABCトランスポーターでは脳側から血液側への排出方向の流れが有意に起こっていた (図2D).さらに興味深いことに,小児リンパ性白血病の寛解維持療法に用いる6-mercaptopurineは,hiPS-BMECsにおいて血液側からequilibrative nucleobase transporter 1 (ENBT1/SLC43A3) を介して速い速度で細胞内に取り込まれ,血液側および脳側細胞膜に発現するMRP5に認識されるものの,正味の流れは細胞内から血液側への方向に傾いていることから,6-mercaptopurineの脳内への移行が制限されていることを明らかにした3).このようにhiPS-BMECsは薬物輸送を担うBBBトランスポーターの特定と方向性輸送のメカニズムを解析できる優れた実験ツールとなる.

図2 hiPS-BMECsにおける密着結合能およびトランスポーター機能評価
(A) 細胞間隙透過マーカーlucifer yellowの透過性,(B) 密着結合形成タンパク質の発現評価,(C) トランスポーターの発現プロファイル解析,(D) 各種基質を用いたトランスポーター機能評価

 これまでの我々の研究においてhiPS-BMECsで機能することが明らかとなったトランスポーターを図3にまとめた.Carnitine/organic cation transporter 2 (OCTN2/SLC22A5) や塩基性薬物の輸送を担うproton-coupled organic cation antiporter (H+/OC antiporter) が機能していることも明らかになった4).一方で,げっ歯類のみならずヒトBBBで機能することが知られているP-glycoprotein (P-gp/ABCB1) の発現量がこの細胞において低く,十分な輸送機能がないという課題も明らかとなった.中枢疾患治療薬がBBBでP-gpの基質になるかどうかは創薬前臨床段階のスクリーニングにおいて重要であることから,hiPS-BMECsにおけるP-gpの機能を高めるような改良が必要となる.既にこの課題の克服に向けて共同研究者の川端健二博士 (医薬基盤・健康・栄養研究所) とともに検討を進めており,P-gpによる排出機能を有したhiPS-BMECsの開発に成功している.

 これまでの動物を用いたBBB研究や数は少ないもののヒトにおける脳移行の結果から「脳神経活動にとってBBBは必要な物質を効率的に取り込み,不要な物質を排除するdynamic interfaceである」と推察されており,今回の結果からhiPS-BMECsはBBB のdynamic interface仮説を実証できる優れたBBBモデルになると考えられた.

図3 hiPS-BMECsにおけるトランスポーターの発現および機能

 次に,我々はこのhiPS-BMECsを用いて3次元フロー培養システムの構築に取り組んだ.脳毛細血管内の血流によって生じるshear stressおよび3次元的な血管構造の形成はBBBのフェノタイプ獲得に関与していることが報告されていることから5,6),脳内における微小環境をより精密に再現することでin vitroin vivo間のギャップが解消できると考えたからである.将来的な創薬への応用を目指し,実験デバイスとしてハイスループット性を有したMIMETAS OrganoPlate® 3-laneを選択した (https://www.mimetas.com/en/organoplate-3-lane-40/).このplateは図4Aのblue laneに細胞外マトリックスゲルを添加することでredおよびgreen laneを区分けすることができ,red laneにhiPS-BMECsを播種して血管側,反対側のgreen laneを脳側とした.1枚のplateにこの9 wellから成るクラスターが40あり,ハイスループットな解析を可能とする.試行錯誤を重ねた結果,red laneに播種したhiPS-BMECsで3次元的な血管構造を再構築することに成功した (図4B).また,lucifer yellowを用いた検討から,血管側から脳側への漏れはなく,本実験システムにおいても強力な密着結合能を保持していることが明らかになった.このように高いスループット性と強力な密着結合能を持ち合わせたヒトBBBの3次元フロー培養システムは前例がなく,我々の報告が世界で初めてである.トランスポーター機能について,LAT1基質であるgabapentinは血管側から脳側への輸送が逆方向を2.5倍上回り,2次元培養ではみられなかった脳側への積極的な取り込み輸送を示した (図4C).このLAT1の取り込み方向有意な輸送機能はヒトやげっ歯類のBBBにおける報告と一致しており7),3次元的なフロー培養によって脳内の微小環境をより再現できたと考えた.さらに,MCT1基質の[14C]L-lactateは血管側および脳側のpHを変化させることで輸送の方向性が逆転し,MCT1の特性であるH+勾配に従った輸送を示した.本実験システムは血液側と脳側のpH変化を検出できる優れたヒトBBBの実験システムといえる.以上の結果から,hiPS-BMECsをMIMETAS OrganoPlate® 3-laneに搭載した本実験システムはヒトBBBの特徴を多く再現していることが明らかとなり,2022年にPharmaceutical Researchにて報告した8)

図4 MIMETAS OrganoPlate® 3-laneを用いたhiPS-BMECsの3次元フロー培養システム
(A) MIMETAS OrganoPlate® 3-laneの概要図,(B) CellMaskTMによる染色像,(C) 3次元フロー培養における各種基質を用いたトランスポーター機能評価

 本研究の結果より,hiPS-BMECsは強固な密着結合を形成しており,多くのABCおよびSLCトランスポーターが発現し機能していることが明らかとなっただけでなく,これまで密着結合能の問題から不可能であったヒトBBBにおける薬物の透過機構解析に有益であることを見出した.さらに,3次元フロー培養により脳内の微小環境を模倣することで,BBBの機能をin vitroシステム上で再現することに成功した.上述したようにhiPS-BMECsの課題はP-gp機能の低さにあり,hiPS-BMECsを中枢疾患治療薬の開発に応用するためには乗り越えなければならない障壁である.我々は,既にP-gpの機能を有したhiPS-BMECsの開発に成功しており (特許出願番号 2021-178573),成果がまとまり次第,JSSXでの学会発表や論文などで報告する予定である.今後,hiPS-BMECsを用いて中枢疾患治療薬の開発に貢献できるような研究だけでなく,BBBのみならず血液脳脊髄液関門 (blood-cerebrospinal fluid barrier) などの関門を含めた新たな統合的brain barrierモデルの開発研究につなげていきたいと考えている.

謝辞

 本研究は帝京大学薬学部 出口芳春教授の立案とご指導のもと,樋口 慧博士 (現 東京薬科大学) および手賀悠真博士 (現 ケンタッキー大学),佐孝大樹君 (博士課程在学中) と共に実施した.hiPS-BMECsの分化誘導法・P-gp機能発現hiPS-BMECsの作製については医薬基盤・健康・栄養研究所 川端健二博士に,トランスポーターの機能解析・評価法については東京大学大学院薬学系研究科 楠原洋之教授にご指導,ご協力をいただきました.この場をお借りして感謝申し上げます.3次元フロー培養システムを用いた研究についてはAxcelead Drug Discovery Partners株式会社 天野信之 様にご指導,ご協力をいただきました.また,論文の執筆について帝京大学薬学部 久保義行教授にご指導いただきました.

 本研究は2019年度 基盤研究(C) (19K07231,代表者 出口芳春) および2021年度 若手研究 (21K15321,代表者 黒澤俊樹) にて実施した.

参考文献

  1. Lippmann. et al., Nat. Biotechnol., 30; 783-791, 2012.
  2. Lippmann. et al., Sci. Rep., 4; 4160-4169, 2014.
  3. Kurosawa. et al., J. Pharm. Sci., 110; 3484-3490, 2021.
  4. Kurosawa. et al., Mol. Pharm., 15; 5546-5555, 2018.
  5. Cucullo. et al., BMC Neurosci., 12:40, 2011.
  6. Ruck. et al., Neural Regen. Res., 10; 889-891, 2015.
  7. del Amo. et al., Eur. J. Pharm. Sci., 35; 161-174, 2008.
  8. Kurosawa. et al., Pharm. Res., 37; 1535-1547, 2022.