Newsletter Volume 36, Number 3, 2021

NEW FACE – NEW POWER

顔写真:薄田健史

「薬物動態研究」を通じたソーシャル・ネットワークの形成

富山大学,和漢医薬学総合研究所
薄田健史

 この度,日本薬物動態学会ニュースレターに寄稿する機会をいただきました薄田健史と申します.紆余曲折の末に,現在は富山大学和漢医薬学総合研究所で助教を務めています.研究歴はもうじき10年ですが,そのうちの大半を薬物動態研究に捧げてきました.私は,2009年に千葉大学薬学部に入学し,その後同大学大学院の修士課程・博士課程を順に修了しました.大学院在籍時には薬剤師免許を取得し,カナダ・アルバータ大学への4ヶ月の短期留学も経験しました.学位取得後は,ポスドクとして2019年4月からカナダに再び戻り,さらに1年間留学してきました.そして,2020年4月からは現職です.今振り返ってみると,我ながらなかなか波乱万丈な20代でした.本稿では,薬物動態研究を通じてこれまで私が歩んできた道のりと今後の展望を紹介したいと思います.少しでも今の学生によい刺激となれば幸いです.

研究生活のはじまりは薬物動態研究

 学部3年生の冬から当時堀江利治教授が主宰されていた「生物薬剤学研究室」に配属されたのですが,そこを選んだきっかけは「薬剤学」の講義と学生実習でした.4年制(薬科学科)の講義が(薬理学を除いては)薬物が全くと言っていいほど登場しない基礎科目ばかりであった中,初めて薬学部らしい学問に出会えて興味を持ったことを今でも覚えており,また学生実習も薬物間相互作用(肝ミクロソームを用いた薬物代謝実験)に関する内容で楽しかった印象が残っています.研究室配属後は,胆汁うっ滞型肝障害を誘発する薬物を簡便かつ高精度にスクリーニング可能なin vitro評価系の構築に取り組みました.当初はラット初代培養肝細胞を用いた12ウェルプレートのプラットフォームが限界であり,何度試してもスモールスケール化に失敗していました.そんな折,2013年から新しく着任された伊藤晃成教授から「細胞の気持ちになって考えてみるんだ」とのご助言をいただきながら培養条件の改良を重ねた末,最終的にはヒト初代培養肝細胞を用いた96ウェルプレートでのハイスループット胆汁酸依存的肝細胞毒性アッセイを実現させました1).また,評価系開発の過程で,胆管への胆汁酸排泄において重要な役割を担うトランスポーターであるBile Salt Export Pump (BSEP) の阻害のみならず,主としてMultidrug Resistance-associated Protein (MRP) 3, 4による血管側への胆汁酸排泄機能の低下も肝毒性発現に影響することも実証し,胆汁うっ滞型肝障害発症リスクの予測精度を向上させる上で,複合的な肝毒性メカニズムを細胞ベースで網羅的に評価することの重要性を見出しました2)

 薬物性肝障害プロジェクトもある程度目処がついたこともあり,博士課程に進学してからは研究テーマをガラッと変え,ヒト白血球抗原(HLA)と薬物の相互作用が引き起こす特異体質性毒性の評価モデルの構築に取り組みました.具体的にはヒト-マウスキメラ型HLA遺伝子導入マウスを作出し,臨床で報告されているような薬物投与後のHLA多型特異的な毒性を再現可能か検証しました.薬物の耳介塗布条件では免疫賦活化に伴う皮膚傷害を発現させることに成功した一方で,経口投与条件では毒性発現までには至りませんでした3).学位審査の直前まで粘った末,免疫寛容を抑制することで経口投与条件でも皮膚傷害を発現可能なことを最終的に見出しました.

 これらの研究内容は,幸いなことに製薬企業・化粧品メーカーからも注目を集め,実際に4社と共同研究を実施する貴重な機会を得ることができました.また,国内外の様々な学会で発表する機会も数多く経験でき,有難いことに優秀発表賞もいくつかいただきました.特に博士課程後半では日本学術振興会の特別研究員に採用されたこともあり,不自由なく研究生活を楽しめていました.ただ,学生時代は研究だけに没頭していたわけではなく,Computer-Based Testing (CBT)/Objective Structured Clinical Examination (OSCE)・実務実習・薬剤師国家試験の受験勉強や博士課程リーディングプログラムの履修,さらには後述の薬物動態学会の第2回学生主催シンポジウム(現PRIS)の運営など,とにかく様々なことにチャレンジしていました.かけがえのない多くの経験を積みながら,非常に中身の濃く充実した日々を過ごせたのも博士課程に進学したからこそだと思っています.

薬物動態学会と私

 薬物動態学会は私の中で特別思い入れが強い学会です.研究を開始してから初めての口頭発表が学部4年生時の第27回年会(タワーホール船堀)であり,それ以来,2021年に至るまで毎年欠かさず参加しています.また,学生の懇親会である「ミキサー」については,企画が始まった第27回年会から学生最後の年会となった第33回年会(石川県立音楽堂)まで皆勤です.薬物動態学会では,アカデミアの先生方,製薬企業の皆様,ならびに多くの学生の皆様との出会いがあり,特に同世代の方々とは今でも交流が続くほど結びつきの強さを感じます.色々と思い出話が尽きない薬物動態学会ですが,私が特に印象に残っている年会をランキング形式で3つ発表したいと思います.

  • 第1位 第31回年会(キッセイ文化ホール・松本市総合体育館)
    (理由)第2回学生主催シンポジウム・学生ミキサーの運営
  • 第2位 第29回年会(Hilton San Francisco Union Square Hotel)
    (理由)初めての渡米,当時熱中して読んでいた論文の著者との出会い
  • 第3位 第33回年会(石川県立音楽堂)
    (理由)学生最後の薬物動態学会,完全燃焼

 紙面の都合上,本稿では第1位の第31回年会についてのみ書かせていただこうと思います.この年会では現 徳島大学大学院医歯薬学研究部 助教の稲垣 舞先生とタッグを組み,第2回学生主催シンポジウムの運営を行いました.オーガナイザーの話をいただいたのはその前年度の第1回学生主催シンポジウムで座長を務めたことがきっかけで,「学生時代に何か1つでも大きなことを成し遂げたい」という思いで快諾しました.“第2回”ということで当時は本シンポジウムの知名度もあまりなかったことから,その年の春~夏にかけて発表者のエントリー数を増やすために各種学会を行脚しながらゆるくロビー活動したことはいい思い出です.特に日本薬剤学会では,学生主催シンポジウムとしては我々の10年先輩の存在にあたる「Student Network for Pharmaceutics Education and Evolution (SNPEE)」に座長として潜入しつつ,運営のノウハウを色々と吸収しました.これらの活動が功を奏したのか,この年のエントリー数は当初の予想を2倍上回るほどの大盛況となりました.当日までの準備では,年会実行委員長の山折 大先生(現 東京薬科大学薬学部教授)に大変お世話になり,大きなトラブルもなく開催できました.

 一方で,シンポジウムの運営と並行して,学生用懇親会(ミキサー)の幹事も仰せつかることとなりました.第27回年会でミキサーが立ち上げられた当初は主管大学の学生が幹事を務めていたのですが,学生主催シンポジウムが設立されるや否やその仕事がこちらに回ってきてしまったようです.100名以上が集まる宴会を運営するのは初めての経験で,随分と苦戦しました.しかも,過去に開催されたミキサー会場が,船堀→船堀→USA→船堀であり,実質,初の船堀以外での開催となったことがさらにプレッシャーとなりました.未知の会場で椅子テーブルの配置を考えるのは勿論のこと,加えて式進行や予算をオーガナイザー二人で考案するのは,正直,シンポジウム本体の開催準備よりも大変でした.しかし,ここでも「新しい風を吹かそう」との思いが先行し,製薬企業・病院・アカデミアから若手研究者の先輩方をそれぞれ数名招待し,幅広い交流を実現させました.このミキサーを足掛かりにして次年度以降のオーガナイザー・演者・座長の立候補が出現したり,大学の垣根を超えたカップルが誕生したり(!?)と,本会は大変有意義なものとなりました.これらシンポジウム・ミキサーの運営を通じて,”「薬物動態研究」を通じたソーシャル・ネットワークの形成”に幾分か貢献できたのではないかと信じています.現に,私自身はこの活動をきっかけに多くの方々とのかけがえのない出会いや交流がありました.コロナ禍の収束後にまた皆様と酒を酌み交わしながら交流できる日が来ることを心より願っています.

苦労ばかりの海外留学と新天地での挑戦

 学位取得後は学生時代からご縁のあったカナダのアルバータ大学薬学部に「日本学術振興会 海外特別研究員」として留学しました.先方ではPET/CTイメージング技術を売りにしている部署が魅力的に感じたため,その技術を私がこれまでに取り組んでいた医薬品毒性研究に応用することを着想しました.具体的には,薬物により組織特異的に活性化した免疫細胞をイメージングにより可視化し,生体での医薬品毒性の発症リスクを非侵襲的に予測可能とする技術の開発に着手しました.オリジナルの放射性核種標識抗体の作製・品質評価までは英語漬けの研究環境を楽しみながら順調に進みました.また,反応待ち時間によく訪れた研究施設内のカフェテリアでは,ハンバーガーやサンドイッチとコーラの組合せによくお世話になりました.しかし,いざ動物実験に進もうかという段階で審査委員会の足止めを食いました.並行して提出されていたものと思っていた動物実験計画書が先方の不手際で未提出であったことに加えて,審査時間が日本よりも約2倍掛かったことが原因で,結局承認が降りたのが帰国2週間前という体たらくでした.そんな状況で研究が完遂できるわけもなく,加えてコロナ禍の影響もあり,道半ばでの帰国となりました.ただ,約-40℃の日々が続く厳冬の中,逆境にめげずに数ヶ月間生き延びたことで強靭な精神力が鍛えられ,このこともまた人生の糧となったと思います.動物実験以外にも日本とは勝手が違うことが多く,色々とストレスに感じることも多かったですが,良い点ももちろんありました.それらは実際に現地に行ってこそ学べるものであったので,留学未経験の方は機会があれば是非海外に一度飛び込んでみることをお勧めしたいと思います.

 帰国後は富山大学 和漢医薬学総合研究所の早川芳弘教授が主宰する生体防御学領域(がん・免疫ユニット)に助教として着任しました.これまでの研究では「薬物の毒性をいかに簡便かつ精度良く予測するか」という点を基本理念に取り組んできましたが,この度発想を思い切って転換し,現在は医薬品による免疫活性化をがん治療に応用することに挑戦しています.薬物動態研究からはだいぶ離れてしまっている現況ではありますが,今後の研究計画で薬物動態学要素を上手く融合することを視野に入れています.加えて,特異体質性薬物毒性の発症リスク因子についても細胞内代謝環境変化の観点から検証することを考え,今年度から2個目の研究テーマとして立ち上げつつあります.近い将来に薬物動態学会でこれらの研究をお披露目でき,あわよくば共同研究も発表をきっかけに生まれることを期待しながら,引き続き研究活動に励んでゆく所存です.

おわりに

 私が学生時代から守っているポリシーは,”どのような機会にも積極的にチャレンジし,全力で取り組むこと”です.時には失敗することももちろんありますが,それが自身の成長やキャリア形成に少しでもプラスになれば御の字だと割り切るようにしています.長引くコロナ禍で従来の研究活動が制限されてしまっている状況ですが,数少ないチャンスもモノにしようとする貪欲さを今の学生の皆さんには是非大切にしてもらえればと思います.末筆ではございますが,本稿の執筆という貴重な機会を与えてくださった編集委員の先生方に厚く御礼申し上げます.

引用

  1. Susukida T, Sekine S, Nozaki M, Tokizono M, Ito K. Prediction of the Clinical Risk of Drug-Induced Cholestatic Liver Injury Using an In Vitro Sandwich Cultured Hepatocyte Assay. Drug Metab Dispos. 43(11): 1760-8, (2015).
  2. Susukida T, Sekine S, Ogimura E, Aoki S, Oizumi K, Horie T, Ito K. Basal efflux of bile acids contributes to drug-induced bile acid-dependent hepatocyte toxicity in rat sandwich-cultured hepatocytes. Toxicol In Vitro. 29(7): 1454-63, (2015).
  3. Susukida T, Aoki S, Kogo K, Fujimori S, Song B, Liu C, Sekine S, Ito K. Evaluation of immune mediated idiosyncratic drug toxicity using chimeric HLA transgenic mice. Arch Toxicol. 92(3): 1177-1188, (2018).