第18回日本薬物動態学会ワークショップ開催に向けて

代表世話人
三共(株)薬剤動態研究所
池田敏彦
 
今や国際化の時代と言われ、外国語を学んで通訳を目指す人も随分増えています。他の人が分からない言葉をすぐさま理解できるのですから、この職業が人気の高い仕事であることはうなずけます。さて、薬物動態学の分野に生きる皆様は見方を変えると、知らず知らずに通訳や翻訳の仕事をしていると御自覚下さい。薬は投与されてから、“体内の濃度”に従って“薬効”という言語で自己主張をします。“薬効”の言葉は場合によると“毒性”の言葉になっているかも知れません。この薬の主張、換言すれば薬の効果はラット、イヌおよびサルなどの実験動物間でも、実験動物とヒトとの間でも、あるいは時としてヒト同士の間でさえも同じではありません。種や個人によって、受容体への親和性や代謝経路および排泄経路が異なっていたりするからです。なるほど昔から薬物は“よそからやって来た化合物(foreign compound)”と言うではありませんか。分からない言葉でメッセージを伝えてくるのも当然です。多くの場合、薬の言葉を理解するための共通言語は、薬物受容体親和性と薬物濃度の時間推移の組み合わせであると言えましょう。薬物動態学者は薬物濃度を規定している吸収、分布、代謝および排泄のプロセスに精通しており、かつ薬物濃度の時間経過を数学的に表現することの重要性を最も良く理解しています。従って、薬の言っていることを、動物種を越えて通訳できるのは薬物動態学者しかいません。これまでの創薬研究や臨床試験はこの“薬の話す言葉を理解すること”、すなわち薬物動態/薬効相関の重要性を長い間見落としていました。しかし、現在ではこの視点を抜きにして語ることができないことはあまねく知れ渡っています。このようにして皆様は、有機化学者、薬理学者、生化学者、毒性学者、分析化学者、臨床薬理学者など、ヒット化合物探索、リード化合物最適化、候補化合物特性解析、臨床評価に関わる多くの研究者の間の架け橋になっています。将来、異なるグループ間の単なるメッセンジャーに終始するのではなく、薬物動態学者が新薬開発プロセスにおいて力強いリーダーシップを発揮されていくことを期待してやみません。ワークショップでは新薬開発に有用な新しい方法論や概念が議論されます。是非、ワークショップを皆様の研鑚の場とされることを強く希望するものです。