昨年7月15日にモントリオールで開催されました第11回国際トキシコロジー会議(ICT-XI)において、「IUTOX功労賞」が発表され、本学会の名誉会員である佐藤哲男先生が受賞されました。受賞に関して、以下のような佐藤先生のコメントが寄せられております。
「IUTOX功労賞を受賞して」 千葉大学名誉教授 佐藤 哲男
第11回国際トキシコロジー会議(ICT-XI)が本年7月15日から19日までカナダのモントリオール市国際会議場で開催されました。この会議は、International Union of Toxicology (IUTOX)と地元開催国のトキシコロジー学会(今回はSociety of Toxicology of Canada)の共催により3年毎に開催される国際会議です。7月のモントリオールは、昼は東京より暑いくらいでしたが、夜になると20℃以下になり、涼しく過ごしやすい気候でした。今回の会議は、81カ国から約1400人の参加者があり、日本からは過去のICTに比べて、私が知る限りでは最も多い100名余が参加しました。
15日夕方に開かれた開会式では、モントリオール市の代表挨拶、主催学会代表の歓迎の挨拶、IUTOX会長の挨拶などのあと、大型スクリーンに私の受賞理由と顔写真が写され、IUTOXのAli Karakaya会長により紹介されました。顕彰楯の授与は時間の関係で18日の総会の中で行われました。この功労賞Merit Awardは、IUTOXの事業に貢献した者を顕彰する目的で1998年に制定されました。第1回受賞者は初代IUTOX会長のSeymour Fries教授(米国)、第2回目は開発途上国トキシコロジー学会(CTDC)初代会長Jose Castro教授(アルゼンチン)、第3回目は元IUTOX会長のIain Purchase教授(英国)で、今回は4回目でアジアから初めての受賞となりました。
今回の受賞理由として、1995年から8年間IUTOX副会長やCertification CommitteeのChairを務めました。また、International Assembly for Recognition of Toxicologists (IART)の初代会長として2年間その職責を果たしました。さらに、Asian Society of Toxicology (ASIATOX)の設立にあたり、初代事務局長として参画し、以後今日までCounselorやAdvisorを務めてきました。今回の受賞はそれらの功績が評価されたものと思います。また、これまでの受賞ではなかったこととして、今回は講演要旨集の半頁に私の受賞理由と写真が掲載されていたため、会場で見知らぬ参加者からもお祝いの言葉を頂いて恐縮しました。
ここで、IUTOXについて簡単に紹介します。1977年に米国や欧州の毒性研究者がカナダのトロント市に集まって、毒性に関する討論集会を開きました。これが世界で最初のトキシコロジーに関する国際会議です。今年はそれから数えて30周年の記念すべき年にあたります。その頃、主要国にはすでに国内に「トキシコロジー学会」がありました。そこで1980年に欧米、日本など先進国のトキシコロジストが提案して、”International Union of Toxicology(略称 IUTOX)”を設立し、各国の トキシコロジー学会はIUTOXに加盟しました。つまり、IUTOXは世界主要国のトキシコロジー学会を統括する連合体です。その後、多くの開発途上国が、「農薬汚染」、「大気汚染」などの 環境問題や、食料事情の悪化に伴う中毒などの対策、情報が必要となり、IUTOXに加盟しました。現在は52学会、総数2万人余の会員を擁する「毒性研究の国際連合」に成長しました。IUTOXの使命は、各国および国際的な対応として、「職場および環境毒性の改善」、「毒性、中毒に関する情報交換」、「最先端技術の開発と情報交換」、「若手研究者の育成」、などが主な仕事です。
授賞式の後で、国内外の多くの友人、知人に祝福されたことは、30年余りの私の研究生活の中で最も感激した日でした。「これからどうするの」との質問も多くありました。米国の大学には定年制がありませんので、私よりも年上で現在も研究の第一線で活躍している人が多くいます。農薬の毒性発現機序の解明で国際的に高く評価されている楢橋俊夫教授(ノースウエスタン大学)、Klaassen教授編集の”TOXICOLOGY”の著者John Doull教授(カンサス大学)などは80歳を過ぎた今でも年を感じません。また、周囲の若手研究者は、一定の敬意を払いつつ同僚として対応していることはうらやましい限りです。日本では中々この様な環境は難しいですが、若い研究者の皆様と接することは、私自身にとっても心身ともに活性化されることは間違いありません。今後はこれまでご支援頂いた多くの皆様に何らかの貢献が出来れば幸いと考えております。
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